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2014年9月6日土曜日

Piggyback -Snubnose Press発!パルプ・フィクション!-

ドラッグ・ディーラー、運び屋、卸売業者、なんと呼ぼうと構わない。それがJimmyの仕事だ。腕っぷしには自信があり、それで一目置かれている。だが、この仕事もずいぶん長い。少々歳を取りすぎたか?…。

その日、早朝からのノックにドアを開けると、そこにいたのは同業のPaulだった。
「助けてくれ、Jimmy!Joseの荷をやられちまった。5キロのコカインだ…!」

Paulの話では荷を運ばせたのは2人の女子高生(「前にも使ったことのある信用できる娘たちなんだよ…。」)、だが、荷を受け取るはずだったまぬけのKevinとの待ち合わせ場所には一向に現れない…。

「なんだってそんなガキ共にそんなブツを任せたんだ?」
「いや、あいつらには知らせてないんだ。ただのいつもの大麻だと思ってる。コカインはPiggyback(相乗り)なんだ…。」

Jimmyは長年使っているポンコツのトヨタ・カムリにPaulを乗せて出発する。ああ、もちろん無料ってわけじゃない。報酬は回収したコカインの中からいただく。足りない分はお前が何とかしろよ。ゼロよりはましだろう。まずは、まぬけのKevinから聞き出した彼女たちのボーフレンド連中からだ。


というわけで、注目のインディー・パブリッシャーSnubnose Pressから、私がまず読んだのはTom Pittsの『Piggyback』です。一方の雄New Pulp Pressの一冊目『Rabid Child』はちょっと難しいことになってしまいましたが、こちらはこの手の話が好きな人には100%おススメできる作品です!
とにかく出てくる奴らはチープな人間ばかり。本当は一番困っているはずのPaulなのですが、頼りになるJimmy任せで、おまけに一文無しで道中ことあるごとに酒と煙草を情けなくJimmyにねだるばかり。一方Jimmyはといえば、ストイックでバイオレンスなタフガイを気取っていますが、結局はトニー・モンタナ基準で言えばその部下の部下ぐらいが使っているドラッグ・ディーラーの遣いっ走りの下請けぐらいのものですから。同様に他の登場人物も底の浅いチープな奴等ばかり。
但し、この作品はコメディではありません。そこで、タイトルにも使ったタランティーノの名作『パルプ・フィクション』が出てくるわけです。この映画の中のあるシーンについて怒る人がいると聞きます。それ程殺される意味のない人物が銃の暴発で車中で死に、それがその人物の死よりも車の汚れの方が重大事の様に扱われるというシーンですね。そういう人の中には、この映画の登場人物の行動や言動からこの映画を「コメディ」だと解釈し、「ブラック・コメディにしてもひどすぎる」と思った人もいるのではないでしょうか。私の個人的な解釈では、この映画は「犯罪映画」で出てくる人物は悪党、犯罪者なのだからどんなひどいことも起こりうること、そして人間の行動には大抵は笑える側面があるということです。かなり単純化した意見なので異論も多いかとは思いますが、私がここで言いたいのはこの小説もそんな作品であるということ。チープな人間同士が浅墓な行動を繰り広げるが、「コメディ」ではないということです。
この小説には(実際には110ページぐらいの作品なので、中編に近いかな)かなり笑えるところもありますが、残酷なところもあるし別に死ななくてもいい人間があっさり殺されたりもします。だから『パルプ・フィクション』を少し不快に思う人にはあまり向いてないかもしれません。あとたぶん、「女子高生に運び屋やらせるなんてありえねーw」とか言いたくなる人にも。でもこんな誰も来ない辺境の地にこんな文章を読みに来てくださる人なら絶対楽しめる100%おススメの作品です。

ちょっと映画を引き合いに出したので、ついでのどーでもいい感想なのですが、実はこの作品すごく低予算で映画にできます。お前がJimmyでさ、俺が監督兼でPaulだろ、この女の子たちは○○ちゃんたちに声かけてさ、ほら、このボスとかは電話とあと最後ぐらいしか出番ないからプロの悪役の人さ、3日ぐらいブッキングできるだろ、なっ、みんなで半年ぐらいバイト頑張ればこれ映画にできるって!みたいな感じ。そんな映画があったら観てみたいです。案外作者周辺で考えてたりしてね。

作者Tom Pittsはサン・フランシスコ出身在住。いや、俺が言ってるのはフリスコのことさ。ウェブジンOut of the Gutter : The Flash Fiction Offensiveのエディターを務める傍ら、あちこちに数多くのショートストーリーを発表しているようです。結構この辺のムーブメントの中では目立つ存在という印象です。この『Piggyback』は彼の最初の本になっている作品で、2作目長編『Hustle』が今年3月同じSnubnose Pressから発売されました。これからの活躍がとても楽しみな作家です。私が他に読んだのは、アンソロジー『All Due Respect』収録の「The Biggest Myth」という短篇です。かなりおっかないギャングのボスが出資したドラッグ商売に失敗した男の許を訪れ、「マネー・ビジネスについての最大の神話は、金を払わないやつは痛めつけられる、ってことなんだがな…。」と始める。果たしてこのボスはこの男をどうするのか?という今回の『Piggyback』にも通ずるドライなユーモアを含んだクライム・ストーリー。あっ、これも超低予算で短篇映画作れる!

Snubnose PressはSpintingler Magazineという独自の賞も出している有名なウェブジンの出版部門というところのようです。以前ここは大丈夫なのか?などと書いてしまったのですが、前述のTom Pittsの『Hustle』も新しく出ているように、まずまず健在のようです。なぜそんな心配をしてしまったかというと、こちらのホームページ、私の知る限りでもかれこれ1年以上更新されていないのです。今回の『Piggyback』も、Snubnose Pressの最初の出版物というわけではなく、ただそんなサイトなのでこのカタログの順番信用していいのかなあ、と思いとりあえずカバー画とかの気に入ったのから読むことにしよう、と選んだものだったりします。とりあえずSnubnose Pressの出版物についてちゃんと把握するには米Amazon、Kindle BooksでSnubnose Pressで検索してみる方が良いかと。まあ、そんなSnubnose Pressですが、本の方は信用できる感じでかなり気になる作家の本が色々と出版されています。全部読むので、ホームページの方はともかく本だけは頑張って出してよね。


Tom Pitts ホームページ

Snbnose Press

Spintingler Magazine

Out of the Gutter : The Flash Fiction Offensive

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●Tom Pittsの著作


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