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2015年1月25日日曜日

Fables -おとぎ話 in ニューヨーク-

こんな有名作を私がやる必要あんのかな、といつものように思ったりもするのだけど、まあ実際には翻訳も出ていないのだし、知ってる人は知ってるだろうけど、どんなのかなと思っている人も多いだろうから、まあ誰かの役に立つかなと思いつつ有名無名を問わず自分が読んで面白かったコミックについては片っ端から色々書いていこう、というのを今後の展望として考えていたりします。

というわけで『Fables』に挑戦です。2002年からずいぶん長く続いているコミックで、実はまだ最初のTPB2冊分10話ぐらいしか読んでいないのですが、さわりの部分、どんな感じなのかな、というのを書いてみようと思います。

舞台は現代のニューヨーク。白雪姫、赤ずきんの狼、ジャックと豆の木のジャック、といったおとぎ話でおなじみの面々がそこで秘かにコミュニティを作って暮らしているという設定です。元々はおとぎの国の領土で暮らしていた彼らですが、まだ序盤では詳しくは語られていない”敵”によって領土を奪われ、現代のこの地に一時的に居を構えています。故郷を追われた時、大赦が執行されおとぎ話上の悪人もその罪を問われることなく一様にコミュニティを構成しています。コミュニティのトップはおとぎの国の王様ですが、行政長官的役割で実務を担当するのは白雪姫スノーホワイト。黒髪でスーツ姿の現代的なキャリアウーマンという出で立ちで、王子とはすでに離婚しています。女癖の悪さから三行半を突きつけられた当の王子は、その魅力を使いあちこちで女性をひっかけてその日暮らしという有様。コミュニティの警備を担当するのが狼で、人間の姿になりヨレヨレのトレンチコートを羽織り、現代のニューヨークでところ構わず煙草をふかすハードボイルド気取り。成長したジャックがいつまでたっても一攫千金の夢を捨てられないちょっとだらしない青年、というのも面白いところです。スノーホワイトの助手でブルーボーイという少年が出てくるのですが、このキャラクターだけはちょっと私にはわかりませんでした。すみません。調べようとしたらヘンなものばかりでてきた。有名なおとぎ話の主人公なのだろうけど…。まあこんな感じの面々によって繰り広げられるストーリー、というのが『Fables』であります。

1. Legends in Exile

白昼、ニューヨークの街をタクシーで横切り、ジャックがおとぎの国の住人たちの本部がある建物に駆け込んでくる。彼と交際のある、スノーホワイトの妹であるローズ・レッドが何らかの暴力的な事件に巻き込まれ行方不明になっているというのだ。警備担当のウルフはただちに捜査を開始し、スノーホワイトを伴いローズ・レッドの住居に向かう。そのアパートの中は部屋中に血がぶちまけられたように飛び散り、家具が散乱した凄惨な有様だった。ウルフはまず、通報者であるジャックを第一容疑者として捕縛する…。

というミステリ仕立てのストーリー。ですが、それほど緊密なミステリーというわけではなく、色々人物関係を書いたら勘のいい人ならわかっちゃうかな、というところなのでこのくらいに。えー…、いきなりネタばらしになってしまうのですが、結果ローズ・レッドは生きています。後にも重要キャラクターとして度々登場してきてしまいますので、ここで生死を曖昧にしておくと先に進めないので…。事件の全貌がどういうものなのかは読んでのお楽しみに。スノーホワイトとローズ・レッドとの間は、過去の様々ないざこざがあり、憎み合っているというようなものではないけど、少し距離を置いた微妙な姉妹関係ということになっています。

2. Animal Farm

スノーホワイトは前回の騒動の結果、処罰により謹慎中のローズ・レッドを伴い、郊外にある動物農場へ視察に向かう。姉妹関係の改善をという考えもあっての小旅行だったが、お互いぎくしゃくしたまま目的地に到着する。同じおとぎの世界の住人だが、明らかに動物で街中では暮らせないキャラクターが生活している動物農場だが、もちろん中にはその待遇に不満を持っている者もいる。折りしも水面下である陰謀が進行中であり、それを察知したスノーホワイトは危機に陥る…。

というわけで早くも生死を不明にできなかったローズ・レッドが登場してしまいます。ちょっとした反逆児である彼女のこの事態の中の去就も見どころ。また、スノーホワイトからの連絡が途絶え心配するウルフですが、狼ゆえ動物農場への出入りを禁止されていて調査に向かえない、という展開もあります。


この作品のライターはBill Willngham。1959年生まれで、70年代後半RPGダンジョン&ドラゴンズで有名なTSC社でイラストレーターとしてキャリアを始めたということです。その後、80年代からComico、Lone Starといった出版社からストーリー、作画を兼ねた作品を発表し始め、2000年代に入ってからDCコミックでライターとして働き始めたそうです。発表された作品の履歴を見てみると、DC内でもこの作品も出ているVertigoにその才能を見出されたというところなのでしょう。2002年から始まったこの作品は現在も続いていて、数多くのスピンオフ作も出されています。おとぎ話の設定をちょっとひねった魅力的なキャラクターを巧みに動かす優れたライターだな、と思うのですが何分私の方がまだあまり作品を読んでいないので作家としての個性のようなものはつかみ切れていないのでその辺に関しては保留にさせてもらいます。かなり長いキャリアを持つ人ですが、大手DCで活動し始めたのが2000年代からということで、まだまだこれからの活躍・展開が期待されるライターのひとりではないでしょうか。
このシリーズはカバーと中のアーティストが別になっていて、カバーの方はJames Jeanが毎回少し幻想的だったりもする素晴らしいアートで飾っていて、何回も賞を受賞しています。コミックの方はペンシラーが、1はLan Medina、2はmark Buckinghamで、インカーは両方ともSteve Leialoha。ペンシラーは両者とも正確なデッサン力を持ち、きちんとパースを取った映像的に言えばカメラ位置を正確にした構図の線を主体とした非常にきちんとした画を描く人で、実はちゃんと調べるまで別の人の手によるものと気付かなかったのですが、思った以上にインカーSteve Leialohaの仕事のウェイトが大きいのかなと思います。ペン画の魅力といった感じの美しい画です。この作品全体的に結構セリフが多いのですが、それらもとても見事に画面の中で構成されています。

版元のVertigoについては、まあずいぶん有名ですが一応書いておくと、1993年にDCコミック内で、従来より少し高い年齢層向けに設立されたレーベルで、基本的にはDCユニバースとは別のオリジナル作品を多数出版しています。


という感じで、まあやってみればそれなりに形にはなったのではないかなと思います。このくらいでも情報があればいいかとという感じだったり、好きな作品の事を書いてあって嬉しいよ、自分に都合の良い好意的な目で見てもらえるものと期待しつつ、今後は有名作でも臆することなくとりあげて行きたいなあと思います。Vertigo辺りはやっぱり好きな作品も多くて、もうすぐやっと最初のJamie Delanoパートを読み終われそうな『Hellblazer』を皮切りに、泣くほど好きな『100 Bullet』だとか、『American Vampire』とか、『Y:The Last Man』とか、グラント・モリソンのアレとかウォーレン・エリスのアレとか色々書いてみたいなあと思っております。もちろんこの『Fables』についてもまた少し先まで読んだら続きを書いてみるつもりでいます。前述の通りこの作品、スピンオフ作が色々あるようなのですが、その辺についてもいずれ探索して行く予定です。


Bill Willingham オフィシャルホームページ

Vertigo   

●Fables

■TPB版■

■Deluxe Edition■

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2015年1月18日日曜日

The Long Midnight Of Barney Thomson -抱腹絶倒!連続殺人鬼コメディ!-

Barney Thomsonはスコットランド、グラスゴーに住む中年の理容師である。いつものように雨降りの陰鬱なグラスゴーの朝、Barneyは長年勤めている床屋に出勤する。

彼の勤める床屋には他に2人の若い理容師がいる。Wullie Hendersonはこの店の現在のオーナーの息子。妻帯者だが、女性にもてて話も上手くこの店の一番の人気の理容師である。Chris Porterは独身者で少しだらしなく遅刻も多いが、調子が良く人と話を合わせるのがうまい男。そして、Barneyは話下手で、しかもこの国の床屋では定番の話となるサッカーの話題にもあまり関心が無い。おまけに年長者ということもあり、店の客は若い二人に集中し、Barneyは店奥の一番悪い椅子を担当させられている。

今日も話のかみ合わないまま一人の客の散髪を終え、送り出したBarneyは順番待ちの客に声をかける。だが、席で待っている大勢の客はいずれも気まずそうにBarneyを拒否する。遂にBarneyの怒りは頂点に達する。

”俺はあの二人のために床屋としての技術まで不当に貶められている!こうなったら奴らを亡き者にするしかない!”

時を同じくし、グラスゴーには謎の連続殺人鬼が跋扈していた。被害者の身体の一部を切り取り家族に送り届けるという残忍な犯人の手掛かりはおろか、殺害された被害者の遺体すら見つかっていない。またしても何の成果もないまま記者会見に臨まなければならなくなったHoldall刑事部長は、つい”犯人についての重要な手がかりが見つかり逮捕は間近だ”と口から出まかせを並べてしまう…。

一方、Barneyは同僚二人の殺害を決意したものの、いざとなるとどうすればいいのか悩むばかり。気弱なBarneyには実際にはそんな度胸も行動力もないのだ。TVドラマ中毒の彼の妻はそんな彼の悩みには全く気付かずTV画面から目を離さず生返事をするばかり。長年のドミノ仲間の親友に思い切って打ち明けると、異常者を見る目で見返され、冗談だとごまかす。だが彼の過激な母親に職場での悩みをもらすと”そんな奴らは頭をぶち割ってやれ!”などとけしかけられる。

そしてまた床屋の一日が終わる。Chrisを先に帰し、Barneyと二人で店の片付けをするWullieは、気まずそうに父親からの申し出としてBarneyにクビを言い渡す。動揺しながらも平静を装い片付けを続けるBarneyだったが、手が震え床に水をこぼしてしまう。罪悪感から手助けに動いたWullieは、その水に足を滑らせ、Barney手に持った鋏の上に倒れ込む…。

自分の意思とは全く無関係に殺害計画が達成されてしまった…。だがこの死体をどうすればいいのだ!?


スコットランドのミステリ作家Douglas Lindsayの連続殺人鬼コメディBarney Thomsonシリーズ第1作、『The Long Midnight of Barney Thomson』です。いやはや本当に笑わせてくれた作品なのですが、いざとなるとなかなかその面白さを伝えるのは難しかったり。そこで今回はその一部を少し紹介してみることにしました。Barneyの過激な母親が登場するかなり笑えるシーンです。


 バーニーがフラットに足を踏み入れると、即座に腸をよじる悪臭が襲い掛かった。彼の頭にまず浮かんだグロテスクな想像 - 彼の母親は数日前に突然死し、その身体が腐り始めている!母親の腐った遺体に躓く予感に彼の身体は硬直した、がそんなはずはない。母親とは前夜話したばかりだ。いずれにしてもこのスコットランドの凍てついた3月の気候で、母親の攻殻化した身体がそんなに早く腐るはずがない。 
 キッチンに近付くにつれ悪臭は強まり、彼はここが臭いの元だと確信する。ペースを速めキッチンのドアへ突き進む!
 母親は大きな鍋の前に立ち、沸き立つ赤い液体をかき混ぜていた。エプロンを着け、頭にはヘア・カーラー。彼は臭いの元を探る。あの鍋か?それとも女性がホームパーマの際頭に突き立てる恐ろしげな代物か?いや、間違いない、あの鍋だ!
「母さん…な、なにをやってるんだい?」
 母親は玉の汗の浮かんだ上気した顔を上げ、振り向く。
「見りゃあわかるだろっ!ワインを作ってるんだよ!」
 彼はまだ僅かな理解ながら、新たな認識に目をみはる。たぶんそれですべて説明が付くのかもしれないが、彼には醸造の知識は全く無い。
「こ、これがワインの作り方なのかい…?」
 彼女はかき混ぜる手を止め、腰に手を当て、唇を引き結びバーニーに厳しい視線を向ける。彼女の小鼻が拡がる。彼にはお馴染みの40年間怖れ続けてきた姿に撤退の準備にかかる。
「ああ、よそ様がどうやって作ってるかは知らないが、これがあたしのワインの作り方なんだよっ!とっとと向こうに行ってすわってな!あたしもすぐに行くから!」
 居間でバーニーが脱力して座っていると、すぐに母親も現れソファに腰を下ろし煙草に火をつける。
「な、なんでワインなんて作ってるんだい?母さん…?」
 すべての疑問に答えがあるわけじゃないだろうと肩をすくめ、彼女は言った。
マーマレードを作るのに十分な砂糖が無かったんだよ!」 


と、まあこんな感じです。力不足で面白さが伝わらなかったら申し訳ない。ちなみに間もずいぶん飛ばしてるし「翻訳」などという御大層なものではありませんが…。
ストーリーの方は序盤はややスローテンポだったりもしますが、その後は次々と巻き起こる予想外の展開に”連続殺人鬼”Barney Thomsonが翻弄されて行く様子は、本当に笑えて楽しませてくれました。果たしてグラスゴーに潜む真の連続殺人鬼とBarneyとにどんな接点がもたらされるかも見どころです。
この作品は以前一時期米Amazon.comのノワール部門にカテゴライズされていたことがあり、私はその時にこの本を知りました。当時は他にシリアルキラーとコメディにもカテゴライズされていて、どんな本だろうかと思っていてやっと読むことができたのですが、期待を裏切らない本当に面白い作品でした。私もこのブログ内ではノワールのラベルを付けていますが、実際にはノワールというよりも、かなりブラックですがイギリスのユーモア・ミステリとかに属する作品ではないかなと思っています。ノワールというと敬遠する人も楽しめる作品なのではないかな、と思います。

このBarney Thomsonシリーズは長編7冊と中編数冊、短編集1冊が出ており、その長編7冊をまとめたボックスセットも販売されています。このクオリティで7冊で(本日2015年1月18日時点で)1200円ちょっとというのはかなりお買い得ではないでしょうか?しかし!、なんとこの『The Long Midnight of Barney Thomson』1冊に関しては現在無料本となっています。ずいぶん長い間無料になっているので当分は無料だと思います。ちなみに、米Amazon.comでKindle本を見ているとアメリカ国内のみで無料というのが多くて悔しい思いをしていたのですが、イギリス発のこの本に関してはアメリカ以外の地域で無料というオプションになっているようです。

作者Douglas Lindsayは1964年スコットランドに産まれ、その後はベルギーなどにも住んだ後、現在はイギリスで奥さんと二人の子供とともに暮らしているそうです。1990年代からこのBarney Thomsonシリーズを執筆しているそうですが、最初の本がいつ出たのかはわかりませんでした。Barney Thomsonの他にはThomas Huttonというキャラクターのシリーズがあり、こちらは同じくグラスゴーを舞台としたダーティーな刑事もののようです。

版元はこのブログでは度々名前の挙がっているBlasted Hath。Anthoney Neil Smith、Annoymous 9といった注目のアメリカの作家の作品も出版されていますが、本国出身のこのDouglas LindsayやRay Banksこそが本命となります。私的にはとにかく出ている本は片っ端から全部読みたい注目のパブリッシャーの一つです。

そして、最後になりますがこの作品実は映画化が進行中です!舞台となるグラスゴー出身の俳優ロバート・カーライルの監督・主演で今年2015年公開となるそうです。やっぱり日本には映画ファンが多いのかこの映画に関する情報は日本語のページも見つかったりしました。スチール写真も出ていて、それを見るとロバート・カーライルという人はうっかり人を殺しかねない感じにも思えますが、それなりにしょぼくれた中年Barney Thomsonをうまく表現しているようです。私は読みながらずっと連続殺人鬼水洋一ぐらいのをイメージしていたのですが。母親役のエマ・トンプソンについてはかなり期待できそうな感じです。この映画が日本でも公開になるのかはわからないのですが、もしそうなったらこの小説も翻訳という可能性もあるかもしれませんね。映画の方も観る機会があったらこちらでとりあげてみたいと思います。


Douglas Lindsay ホームページ

Blasted Heath       

■Douglas Lindsay : Barney Thomsonシリーズ
●長編

●DCI Jerichoシリーズ

●Pereira & Bainシリーズ

●DI Westphallシリーズ


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