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2016年7月10日日曜日

2000AD 2015年秋期 [Prog 1950-1961]

前々回に引き続き今回も2000AD。2015年秋期です。例年なら年最後の年末・クリスマス特大号はProg 2016となるところですが、今年は続きの番号でProg 1961になっています。というかもうこれ以上だと混乱すらから今年以降ということになるでしょう。ではまずは今期のラインナップから。

 Judge Dredd
 Defoe [Prog 1950-1960]
 Brass Sun [Prog 1950-1959]
 Sinister Dexter [Prog 1951-1956, 1961]
 Bad Company [Prog 1950-1961]

そして今回のトップ画像は、13年ぶりの復帰、そして恐るべき再スタートを切った『Bad Company』であります!いや、大好きな『Brass Sun』が良くなかったわけではない。そして、巨匠Millsの代表作の一つ『Defoe』も、毎回楽しませてくれるAbnett『Sinister Dexter』も押さえて『Bad Company』なのです!詳細については後ほど!


Judge Dredd
 1. Serial Serial : John Wagner/Colin MacNeil (Part1-5)
 2. Islands : Michael Carroll/Paul Marshall
 3. Sleeping Duty : Michael Carroll/Nick Dyer
 4. That Extra Mile : Alec Worley/Karl Richardson
 5. The Beating : John Wagner/Patrick Goddard (Part1-3)
 6. Melt : Rob Williams/Henry Flint

1. 2015年冬期のDark Justice以来姿を消していたMega City-Oneの天才的犯罪者P J Maybeが登場。P J Maybeについては以前に書いたJudge Dredd / Day of Chaosの時に少し書いたのですがかなり省略してしまったので、ここでこれまでの経緯についてもう少し詳しく書きます。
Day of Chaosの冒頭で逮捕されたP J Maybeですが、様々に策を使い、顔を変えて脱走。(Mega City-Oneには簡単に顔を変えられるマシンがあり、かなり初期から登場しています)その後、さらに顔を変え、美容院のようにマシンで顔を変えられる店の店員として潜伏。店にやってくる金持ちの老婦人を見繕い、取り入って結婚し、Chaos Dayの大暴動の間もその屋敷に閉じこもりやり過ごします。その間に遭遇してしまった3体のDark Judgeを騙し、瓶に封じ込め隠し持っていました。そして2015年冬期のDark JusticeでJudge Deathが現れ、Dark Judge達を解放したが、P J Maybeについては生死も不明、となっていたのがこれまでの経緯です。
人体切断のマジックショーで事故が起こりマジシャンが体を切断され、死亡。そしてその胸にはドレッドに宛てたP J Maybeからの手紙が置かれていた。その内容は、最近起きた複数の連続殺人犯による未解決の事件はすべて同一の犯人によるものだというMaybeの推理だった。ドレッドは、その連続-連続殺人鬼と、更に新たな死体とともにメッセージを送り続けるMaybeを追い捜査を続ける!
今回はミステリ仕立てのストーリー。Dark Justice以後のいきさつについては、Maybeの手紙によると、彼はDeathのスキを見て逃げたということ。たぶんDeathはMaybeを同類とみなして逃がしたのだろう、というMaybeの考えも書かれています。今回も最終的にはまんまと逃げおおせたMaybe。いずれまた登場のことでしょう。ストーリーは夏休みから戻ったJohn Wagner。作画はもう結構おなじみのColin MacNeil。太めの丸い線を使いながら、カラーリングも含めた全体の印象で常に夜のようなダークな雰囲気を作るのが上手い。

2~4はそれぞれ1話完結のストーリー。うち2,3はMichael Carrollがライターを担当。前の夏期のBlood Of Emeraldsや前年夏期のCascadeなど大き目の話を手掛けているDreddの中心ライターの一人です。
2はある潜入捜査官の関わる事件を通じたアスペルガー症候群の少年とドレッドの触れ合いを描いた心温まる話。作画はおなじみPaul Marshallなのだが、ちょっともうやたらとこの人にケチをつけるのは悪いのでやめよう。少し忙しいと単調な構図を描いてしまう癖があるようですが、この作品は丁寧に仕上げられています。
3はシティ外の小施設にお宝があると思い込み侵入したこそ泥たちが、中にあったスリーピング・マシンでドレッドが仮眠をとっているのを見つけ…。という少しコメディタッチの話。スリーピング・マシンというのはジャッジが短い時間で充分な睡眠をとったような休息を得るためのマシンで、こちらも割と初期から登場しています。作画のNick Dyerは少し調べてみたところまだ若手のアーティストのようですが、結構好きなタイプの線なので今後の活躍を期待したいところです。(ホームページ)
4は、恒例のシティ外のマラソン大会で、コースの一部が危険地帯であることから中止になり、ジャッジ達が参加者を止めるため出動。しかし一部のグループはすでに危険地帯に差し掛かり、更に走りにかける男たちは…。というストーリー。ライターはDreddでワンショットでたびたび登場しているAlec Worley。作画は夏期『Outlier』のKarl Richardsonなのだが、この作品ではちょっと引きの画の弱さが出てしまった感じ。

5. 再びJohn Wagnerによるストーリー。隠し撮りによる脅迫で稼いでいたグループが、ドレッドがバイク・ギャングを退去させるために出動した際、中の一人を必要以上に殴打し、死に至らしめるという映像を入手し、ドレッドを脅迫しようと試みるのだが…。
おなじみ社会派Wagnerによる一編ですが、真相は退去をスムーズに進めるため、潜入捜査官の一人と芝居を打った、というのは大体想像できてしまうため、少し小品の感じも。作画は2015年冬期のあの『Savage』のPatrick Goddard。Adam Brownによる重みのあるカラーリングもあっているのだけど、個人的にはより持ち味の素晴らしい線が活かされるモノクロが好みですが。

6. 年末・クリスマス特大号の増ページのワンショットは夏期に完結したTitanサーガのコンビによる番外編的後日譚。Mega City-Oneに雪だるまの盗賊団が出没。だがそれは実はEnceladusの生命体へと変貌した逃亡者たちが起こした猛吹雪の残雪から作られた雪だるまが意識を持ったものだった。彼らの目的は生存のため冷蔵庫を集めるだけだったが、Justice Departmentはそれを放置しておくわけにはいかなかった…。
クリスマス・ストーリー…かな?2のように子供が出てくる話なのだが、こちらはちょっと切ない結末に。

Defoe : The London Hanged
 Pat Mills/Leigh Gallagher

巨匠Pat Millsの代表作の一つが登場です。17世紀、架空のイギリスを舞台に水平派の闘士Titus Defoeが、魔術により蘇生させられたゾンビと戦う物語です。単行本も2冊発売中。前に掲載されたのが、私がこれを始める前の2013年夏期で、Defoeが一緒に戦っていた女性と、ゾンビの蘇生者にとらわれていた彼女の息子を救い、大団円の感じで終わっていたのですが、新たな展開で再開しました。
戦いは終わり、救い出した女性TomazineとSean、そして新たに生まれた娘とともに平和に暮らしていたDefoe。だが、ある夜、教会により絞首刑にされた者たちがゾンビとして蘇らされ、その群れはロンドンへと向かう。何者が彼らを蘇生させたのか?かつての同士Brethern、貴族階級の歪んだヒーローたちも動き始める。そしてDefoeもかつてのゾンビ・ハンターの装備を身に着ける!
作画はあのローマの狂戦士『Aquila』(なんか毎回書いてるなあ…好きなもので)のLeigh Gallagher!こちらは白黒なのですが、Leigh画の暴走感がさらに強まり、主人公Defoeからして相当に凶悪な面で、善人と悪人の判別もつかない素晴らしいアート!というかこの作品ほとんど悪い人しか出てこない。味方であるBrethern達もほとんどぶっ壊れた危険人物ばかりだし、貴族階級のマスクをつけて魔術で戦う偽ヒーローたちは完全に狂った堕落した連中だし。ちょっとイギリス史にあまりにも疎いのでわかってない部分もあるのかもしれないが、とにかく凄い。今後の展開としては、この偽ヒーローとの暗闘が一つの中心となって行くのだろうと思われます。というところなのですが、今シーズン最終回、Tharg閣下によると、Leigh Gallagherは今回で『Defoe』の作画を降板するとのこと。誠に残念ですが、2000ADはいいアーティストが沢山いるので、次回からどうなるのか期待して待ちたいと思います。しかし巨匠Pat Millsの作品はどれも素晴らしく、一方で日本ではあまりにも知名度も低く、微力ながらもこのMills氏の偉大な功績を少しでも多く伝えて行くのが私の使命なんじゃないかと少し大げさながら思ってしまうのですよ。多分あのアラン・ムーアだって昔は敬語で話してただろうぐらいの大物なんだゾ。と言いつつも現在の2000AD2000号までに追いつこう作戦進行中の状況で、色々読み始めたのもストップしてしまっているのですが、また区切りが付いたら頑張って続報をお伝えして行くつもりであります。しかしLeigh Gallagherって今回初めてよく調べてみたら、なんか拍子抜けするぐらいにこやかなアンちゃんかオッサン(年齢不詳)が出てきたのだが…。いや別にいいんだけど…。(ホームページ)

Brass Sun : Motor Head
 Ian Edginton/I.N.J.Culbard

さてここで『Brass Sun』!2014年夏期以来の登場となりますが、私も何度も好きな作品と言いながら、少し雑に書いてきてしまったので、今回ここであまりちゃんと書いてなかった序盤のストーリーをまとめておきます。
たくさんの惑星が集められ、パイプでつながれ機械的に太陽の周りを回っている不思議な世界。その太陽は衰え、死に向かっている世界を救うため、祖父の遺志を継いだ少女Wrenは旅立つ。自らの惑星のシステムの管理者のもとにたどり着いたWrenは、そこで働く技術者の少年Septimusとともにシステムを再起動させるための鍵を求め、今では使われることのなくなった惑星をつなぐパイプを通り、別の惑星へと出発する。最初の惑星ではその世界の内乱に巻き込まれながら、誰からも顧みられることのない掃除負の男の頭の中にあった「祖父の本」をWrenの脳にインストールし、次の惑星に向かい脱出する。というところで2014年夏期のFloating Worldの話へとつながるのですが、そちらで書いてなかったこととしては、Wren達がGaseouse Clayを求める冒険に出ている間にギルドのPeiの許を謎のロボット(画像のヤツ)が襲い、その混乱に乗じてWren達がPeiの娘の中の鍵を手に入れるという展開。このロボットに関しては正体は不明ながら、目的はWrenの頭の中にある「祖父の本」であるこの世界を作った者の記憶らしいということです。ということで今回のストーリーへ。
次の惑星へと向かい、パイプを通っていたWren達は、その途上別のシステムの管理者によって制止、拘束されてしまう。そもそもはシステムの技術者であり、出立前にいざとなればWrenよりもシステムを優先するように言い含められていたSeptimusは追及されるうち、Wrenの頭の中に創造者の記憶があることを話してしまう。その結果、管理者たちは生死をも問わない強引な方法でWrenの頭からそれを取り出そうと試みる。自分の行動の結果に深く後悔しながら、システムの労働者に組み込まれ働くSeptimus。だが、再び現れた謎のロボットの襲撃により、Wren奪回のチャンスが訪れる!
今シーズンは冒頭からヒロインであるWrenちゃんが丸坊主にされた頭に電極の針を何本も刺され、鼻血を流しているというあまりにもショッキングな展開に多くの読者が退いたせいか、少し評判は悪かったようですが、基本的には変わらない少年少女の愛と勇気の冒険物語で、個人的には全く評価は揺るがず、今回も本当に楽しませてもらいました。でもやっぱりヘッドギアぐらいに穏便にしていた方が良かったんじゃ、とは思うけど…。でも彼らに協力してくれる、厳しい労働のため疲弊し人間の体をあきらめダルマみたいなロボットになっちゃったおばさんが、囚人服のWrenに昔の勝負服を渡してくれるというような美しいシーンもあったのですよ。最後にはさらに強敵も出現し、今後の展開にますます期待が高まる『Brass Sun』であります。余談ですが、今の日本で使われている「冒険小説」という言い方にまでイチャモンを付けるつもりではないのだけど、なんかこういう物語の居場所がなくなるような気がして、個人的にはあまりその言い方は使いません。作者チームについては、散々書いてきているので今回はいいか。D' Israelとの新作も期待されるEdgintonですが、一方のCulbardも2016年春期には意外なコンビで新シリーズが始まります。

Sinister Dexter : The Taking Of The Michael
          Blank Ammo

 Dan Abnett/Patrick Goddard/Simon Davis

2014年夏期以来の登場となるおなじみの凄腕ガンシャーク二人組が活躍するシリーズです。今回はいよいよしばらく続いていたTanenbaum追跡の最終章となります。全6回の「The Taking Of The Michael」のあと少し空いて、クリスマス特大号にワンショット「Blank Ammo」が掲載されています。ちなみに左のクールなカッコイイ画像は作画の二人ではなく、John Davis-Huntという人によるものですが、前シーズンの作画が『Orlok』などのレトロ画のJake Lynchだっただけにかなりの落差が…。

The Taking Of The Michael
Tanenbaumが証人プログラムに守られ、潜伏するSkelton Keysに到着したSinisterとDexter。Tanenbaumの所有する豪華クルーザーで行われる船上パーティーに狙いを定めた2人だったが、敵側も彼らの到着を悟り、次々と刺客を送り込んでくる。それらを打ち倒し、クルーザーに潜り込んだSinisterとDexter。そして、遂にTanenbaumとの対決の時が来る!
今回は戦闘後の船上の警察による現場検証と、Skelton Keysについてからの2人のストーリーが交互に語られる構成となっており、冒頭から船上に二つの人型がチョークで描かれていて、果たして彼らはどうなったのか、という展開で進んで行きます。最後には宿敵Tanenbaumを追い詰め、Sinister Dexterは銃を撃つ!だがTanenbaumの身体は大爆発!なぜか無傷だった2人は起き上がり、船から去る。しかし、上陸したとたんに警察に出会い、身元照会をされるが何故か彼らの犯罪記録は無くなっている。どうやら爆発の衝撃で今度は2人が異次元に飛ばされてしまったようだ、という結末。毎回作画が変わるこのシリーズ、今回はDreddにも登場したあのPatrick Goddard。このシリーズの雰囲気に合わせ、構図やタッチなどを若干変えてスピード感を出しているところもあり、さすがという感じです。

Blank Ammo
クリスマス・年末スペシャル号のワンショット。地元に帰ってみた2人だが、誰も彼らのことはわからない様子。しかし何事にも動じない2人はいつものノリで歩き回り、さて、これからこっちの世界でガンシャーク稼業を始めるか、という感じに終わります。
Dan Abnettの2000ADではおなじみの人気シリーズ『Grey Area』に続き、こちらの『Sinister Dexter』も異次元に行ってしまったわけですが、先に戻るのはどちらになるのか?こちらの作画はなんとあの『Slain』のSimon Davis。まあ、凄い人は何描いても凄いですね。

Bad Company : First Casualties
 Peter Milligan/R. Dayglo/J. McCarthy

そして、いよいよBad Companyの登場です。ではこれはいかなる作品なのか。元は1980年代2000ADにてPeter Milligan(ライター)/Brett Ewins(ペンシラー)/Jim McCarthy(インカー)のチームにより創られたSFミリタリー・アクション・コミックです。異星人Kroolと人類との戦争が繰り広げられる惑星Ararat。主人公の若き兵士Danny Franksは自らの部隊が全滅した後、Bad Companyと呼ばれる部隊に配属される。そこはフランケンシュタイン的怪物である隊長Kanoに率いられるミュータントと狂人の集まりの部隊だった。というストーリー。こちらはまだ未読なのですが、今回の再開の直前にコミック情報サイトComics Allianceのインタビュー(Peter Milligan Brings Back ‘Bad Company’ for ‘2000 AD’ [Interview])でピーター・ミリガンが語っているところによると、ベトナム戦争の映画や本などに触発されたということですので、おそらくは英雄的な戦争物語とは異なる作品であったのだろうと思われます。同時期には終わりのない戦争で化学・生物兵器で完全に汚染された惑星を舞台としたSFミリタリー・コミック『Rogue Trooper』も掲載されていた2000ADですし。
そして、その後2000年代初頭にごく短期間復帰、Alan Grant/John Wagner/Carlos Ezquerraによるワンショットなどを経て、13年ぶりに再開された今作はいかなるものなのか。同インタビューによると、その後さらに変化した現代の戦争について描くこと、そして、戦争は本当に戦う価値があるのか、ということが今作のテーマとなるということです。

終戦から10年。Dannyら元Bad Companyのメンバーは、形としては戦争の英雄だが、そのあまりにも深いトラウマゆえに軍の施設で薬漬けになり、それでも一応は平穏な日々を送っていた。ある日、Dannyは軍上層部に呼び出され、出頭すると、連れていかれたのは軍のジャンクヤードのような施設だった。Dannyはそこでかつての隊長Kanoと再会する。だが、Kanoは頭と胸に大穴が空いた状態のまま、いまだに戦闘の最中にいるかのような狂気の行動をとるばかりだった。戦争終結後、軍はKanoを平和な状況に適応させるように試みたが適わなかった。そして彼らはDannyにKanoを殺すよう要請する。しかしその命令に疑問を感じたDannyは、かつてのBad Companyのメンバーを集め、Kanoを軍施設から奪い出す。施設の彼らが信用する医師により、Kanoは幻覚から解放され、元の状態に復帰し始める。Danny以下のメンバーたちも大量の薬の摂取を止め、無気力状態から復帰し始めるのだが、その一方で自らの記憶に違和感を感じ始める。その謎を解くため、彼らは旅立つ。そして、かつての戦闘の地Ararat、刑務所惑星を巡ったBad Companyは、恐るべき戦争の真実を知る!

そして地球に戻ったBad Company。行われていた戦勝10周年を祝う記念式典に乱入し、彼らは集まった観衆に自分たちの知った戦争の真実を訴える。

戦争の発端となったAraratの植民村のKroolによる大虐殺は嘘だった。AraratをKroolの手から奪うための、地球政府による工作だったのだ。そしてその任務のため植民村の人々を虐殺したのは彼らであり、その後軍施設で記憶を消されたが、その罪悪感のため狂気を免れなかった者たちが集められたのがBad Companyだったのだ!

しかし、集まった観衆はそんな話は聞きたくはなかった。彼らに向かい次々と物を投げつける!駆けつけた軍も彼らに銃を向ける!そして、ここからBad Companyの新たな戦いは始まるのだった!

この作品の評価に関しては、大きな批判も見当たらないけど、大きな絶賛というものも見当たらないという様子です。前作を知らない私から見ると、以前のものをひっくり返してしまったようにも見えるけど、『Bad Company』という物語をよく知っていれば、再開されたものがこのような形になることにそれほどの違和感を感じないものなのかもしれません。
戦争というものは昔からそういう部分があったものにせよ、近年の戦争では特にその理由や動機に疑問視される部分が多いのは誰もが知るところでしょう。この作品の、あまりにも明白な政府の利益追求のための悪行、というのは少し単純に思えるかもしれません。しかし、自国の利益や、安全保障上の観点、はたまた営利企業であれば利潤追求のために動くのは当然、などといった形で、実際に国民であり、企業など社会の一員である私たちがそれぞれに自分の立場を考えながら議論を重ねるうちに常に結論も、本質も曖昧になり、そして曖昧なまま次の戦争が起こされ、犠牲者が重ねられてて行くものではないでしょうか。それがSFという形で架空のものであっても、ひとつの戦争を描いた後、一旦は終了し、そして新たに「現代の戦争」を描くために再開された本作は、それが単純化されたものであっても、ひとつ現代に向けて大きな意味がある作品なのではないでしょうか。自分は根本的に何かそういうところで意見を述べるような資質は無く、ただ良い作品を読んだらその意味を一生懸命考えようというだけの人間ですが、そういう者としてこの作品は、なんとしても未読のものも読み全体の意味を見極めなければと思い、更には作者であるピーター・ミリガンの作品を今後はできる限り読まなければ、と思わせる今期最大の問題作でありました。
ライターであるピーター・ミリガンは、多分日本語表記で良いくらいのビッグネームだと思うのですが、現在のところあまり代表作などは翻訳されていないようですね。イギリス出身で2000ADで活躍した後、いわゆる”ブリティッシュ・インベンション”でアメリカに渡った作家の一人です。代表作はVertigo作品などで多数あり、『Hellblazer』全300話の最後のライターも務めています。今回のBad Companyの続きが描かれるのかは不明ですが、前出のインタビューで、ミリガンはこれを機に2000ADへ復帰することに意欲的で、その方向で動いているということなので、近いうちにまたミリガン作品を2000ADで読むことができることと思います。
この作品の作画はこれまではミリガンによる作品は一貫してBrett Ewins-Jim McCarthyのコンビによって描かれてきましたが、2015年Ewinsが死亡し、今回からはRufus Daygloが参加しています。90年代から主に2000ADで活躍する他、『Tank Girl』のシリーズのひとつなども手掛けているアーティストです。ちなみに今回トップ画像に使用した『The Complete Bad Company』はプリント版は残念ながら現在絶版なのですが、2000ADのアプリショップからは読むことができます。

最後にProg 1961 クリスマス・年末特大号について。100ページのラインナップは以下の通り。

 Judge Dredd
 Absalom
 Kingdom
 Bad Company
 The Order
 ABC Warriors
 Sinister Dexter
 Future Shocks
 Strontium Dog

うち、Dredd、Sinister Dexterについては上で解説済み。Bad Companyはこれが最終回。Kingdom、The Order、ABC Warriors、Strontium Dogは2016年冬期のシリーズのスタート。ということで残り2作について。

Absalom : Family Snapshots
 Gordon Rennie/Thernen Trevallion
2015年夏期に掲載されたシリーズのワンショット。Absalomの許には今年も地獄から孫たちの写真が送られてくる。悪魔たちに囲まれにこやかに笑い成長して行く孫たちの写真。彼を嘲り、苦しめるために。そのころ、新たに加わった悪魔ハンターの少年Danielは廃墟となったかつての住まいに向かっていた…。続きが待たれるシリーズですが、多くの人気シリーズを抱えるGordon Rennieのこと、今年中の掲載はあるのか?

Future Shocks : The Mighty Mykflex
 Martin Feekins/Jesus Redondo
1977年2月、地球に謎の宇宙船が墜落。生き残った異星人Mykflexは逃亡し、ヒッピーのコミューンに潜り込むのだが、宇宙船に残された数々の冒険の映像からその才を買われ、SFコミック誌1999ADのエディターになる。しかしそこに、おなじみ2000ADのTharg閣下が現れ、彼を新たなスリルの探索者としてリクルートし、Mykflexは再び冒険の旅へと出かけるのであった、という話。どうも1980年代ぐらいのFuture Shocksと関係があるらしいのですが、さすがにそこまではわかりませんでした。なんかわかったらその時に書きます。


今期は4シリーズのみだったのですが、どれも熱量が高く、長くなってしまったため、またしても遅れてしまいました。やっと2015年分が終わったか、と思うけど結局もう7月か…。あと最低やっとかなきゃならないのは2016年冬期、春期の2期ですが、冬期はご覧の強力ラインナップ。春期はまた2回に分けなきゃならなそうという感じですが、何とか早めに進めるよう努力しますです。他のコミックのことも書きたいのだが、とりあえずは2000号目指して頑張ろうということで、しばらくはこの感じでまたお付き合いください。

【追記】
なんだか『Tank Girl』をミリガンの作品だと思い込んでいて色々間違ったことを書いていたので修正いたしました。何が原因でそう思い込んだのかは不明。たぶんこのアーティストの別の作品ではライターが誰で、みたいなことを横にたどったりしているような過程で間違って思い込んだのだと思うけど。今週ComixologyでTitanの『Tank Girl』とかのセールをやっててやっと気付きました。今後はきちんと確認して正確な情報を書くように努めます。すみませんでした。


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