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2018年4月29日日曜日

Fahrenheit 13特集! -新たなる英国ノワールの牙城に注目せよ!-

今回は英国ノワールの新たな牙城として、本年2月にFahrenheit Press内に立ち上げられたばかりのFahrenheit 13の特集である!さてFahrenheit 13とはいったい何者なのか?ここに至る流れはちょこまかあっちこっちで書いてきているのだけど、今一度ここでまとめておこう。
まず初めに、Number Thirteen Pressから始めよう。これは2014年に英国で立ち上げられた画期的なパブリッシャーで、その年の11月より毎月13日にそれぞれ異なる犯罪小説作家の中編作を1冊ずつ、全13冊出版するというプロジェクトを実施。翌2015年12月に予告通り全13冊の出版を終え、その後はパブリッシャーとしては休眠状態にあった。そしてもう一方に英国Fahrenheit Press。パンク・パブリッシャーを標榜し、それ以前より多くのミステリ、ノワール・ジャンルの作品を出版してきたが、近年世界のノワール・ファンから最も注目を浴びたのは、昨年春、数多くの優れたノワール作品を出版しながら力尽きた280 Stepsの突如絶版状態となってしまった作家作品の救済復刊活動であろう。えーと、280 Stepsについては多分調べても日本語で書いてるのワシだけじゃないかと思うけど、とにかくいい本をいっぱい出してたんだよ!それでFahrenheitの他にもDown & OutとかPolis Booksとか現在のシーンを牽引するパブリッシャーからもかなりの作品が復刊されているのである。その辺については去年結構下のお知らせの方で書いてるのでそっちを見てくれよ。そして今年2月、そのFahrenheit PressにNumber Thirteen Pressが合流するという形でFahrenheit 13が立ち上げられたことが電撃的に発表されたのである。そのFahrenheit 13を率いるのはNumber Thirteen Pressの仕掛け人Chris Black。Number Thirteenの最後にはかのPaul D. BrazillやRichard Godwinも登場させた実力の持ち主である。新生Fahrenheit 13のラインナップには280 Steps残党作品も多く含まれているところから、その段取りを付けたのもこの男の人脈ではないかとも察せられる。またしても現代ノワール界に要注目人物登場である。Chris Black。こいつを忘れるべからず!と延々と書いてきたところで、いかにこのFahrenheit 13が注目すべきレーベルなのかはご理解いただけたであろう。このFahrenheit 13の現在のラインナップについては最後にすべてリストアップするが、発足間もない現時点では前述の280 Steps残党の他に元々のFahrenheit Pressからの移行組、そしてNumber Thirteenの再刊が数点というところ。しかし相手はこのChris Black!Number Thirteenの伝統にしたがい毎月13日に刊行されるこれからの新刊には今後のノワール界の中心となる新たな才能も続々登場してくることだろう。さあFahrenheit 13から目を離すべからず!今回はそんな大注目のFahrenheit 13のラインナップであり、かつもはや伝説のNumber Thirteen Pressの作品3作を紹介いたしまするのだ!

と、鼻息荒く始めてみたのだが、本当のところを言ってしまうと、この3作はNumber Thirteen Press特集第1弾として去年のうちぐらいにやるはずだったのだが、昨年来の甚だしい遅れにより延々と引っ張っているうちに、遂に大元のNumber Thirteen Pressの方がこのように進化を遂げてしまい以前のままでやることはできなくなってしまったという始末…。書く方が遅れているから読む方もストップしているというなんとも情けない、本来ならFahrenheit 13に合わす顔がないというところなのだが、何とかここで仕切り直し、今後のFahrenheit 13をきちんと追っていけるよう今回は頑張ってみますのだ!というところなのです。では行くぞ!

Of Blondes And Bullets/Michael Young

まず最初はMichael Young作『Of Blondes And Bullets』。こちらはNumber Thirteen Press第1弾として発行され、Fahrenheit 13になった後も第1弾として再刊されております。

■あらすじ
失業中の建築家Frankは、いつものように眠れぬ夜を過ごし、明け方海岸にドライブに出かける。夜明けの海の波間に見え隠れする銀色の浮遊物。あれは人だ!冷たい海に飛び込み、必死で銀色のショート・ドレスをまとったブロンドの女を岸に引き揚げる。命を取り留めた女は、病院も警察も無用だと言う。放っておくわけにもいかず、現在暮らす交際中の女性が出勤した後の家へ連れ帰り、乾いた衣服を与えた後、住居まで送ろう、と告げるFrankに、女はどうしても急いでいかなければならない場所がある、連れて行って欲しいと頼み込んでくる。
そしてそこからFrankは予想すらしなかった暗黒へと巻き込まれて行くことになる…。

うーん…、この書き方で良かったのだろうか、とちょっと悩んでしまった。つーのは、この作品独特の書かれ方をしていて、それが作品の独特の雰囲気を作り上げているのである。読後だったか、どこかで誰かのレビューでハメット的という書き方をしててなるほどと思ったりもしたのだが。昔、小鷹信光先生がハメットの作風を三人称単数として、『マルタの鷹』でスペードが夜中にかかってきた電話を取るシーンだったかを例に説明してたのを思い出した。この作品も自分の思うところではそんな感じで書かれていて、あらすじで書いてみた部分でも、主人公は最初延々と彼と書かれていて、女を助けて名前を告げたところからやっとFrankとなる。うーん、でもあらすじとして説明しようとすると、やっぱりそれはひとつの記述方法としての手法で、主人公の名前などを隠しておくためのものではないからこういう形になってしまうのだよね。何とかあらすじでも作品の雰囲気を伝えるようにとは心掛けているのだけど難しいものですね。この作品その後も例えばシーンの最初がカメラを移動したり引いたりというようのと通じるような手法で徐々に状況が見えてくるような形だったりという風に、三人称単数的で書かれていて、それが時代設定などは現代のままクラシック・ノワール的というような雰囲気を作り上げているのです。この作品実はその前にプロローグ的な、どこかに監禁されている男が見張りをぶちのめして脱出しようとしているという場面が描かれているのだが、これまで書いた手法の中で、話が進まないうちにはよくわからないシーンそのままで書くしか思いつかなかったので、省略いたしました。話としては巻き込まれ型というもので、独特の雰囲気で読ませる秀作です。

作者Michael Youngはこの作品以前に自費出版による書籍が2冊。うち1冊は私立探偵Harry Veeシリーズの中編作で、ホームページを見ると第2作も準備中とのことなのですが、現在までのところ続きは出ていないようです。経歴としては、しばらく東アジアで暮らしていて、煙草を吸い、スコッチを飲み、黒い服を好み、UFOを信じない人ということです。前述のHarry Veeシリーズを含め2014年以降は新作もホームページの更新もないので近況については不明ですが、さすがにNumber Thirteenでトップを飾っただけの実力ある作家なので、また頑張ってほしいところです。

Michael Youngホームページ

Down Among The Dead/Steve Finbow

Number Thirteen第2弾のこちらの作品も、既にFahrenheit 13から発売中。

■あらすじ
-ロンドン、キルバーン 2008年3月-
部屋まであと一歩のところで胸が苦しくなってきた。昨日の帰りに買い物をすましときゃよかったんだが、結局今朝出る羽目になりこの始末だ。まったくこの年になると身体が言うことを聞かない。バスに乗りゃあ良かったんだがたった2停留所だからな。何とか部屋に戻る。Coopersに行く前に何か食っとかなきゃな。買って来たパンとサーディンでサンドイッチをを作る。ロンドンに住んで3年になる。ハマースミスを出てからずいぶんあっちこっちへ行った。一つ所に落ち着ければいいがなかなかそういうわけにもいかない。
新聞を買い忘れちまった。Coopersへ行く途中に買わなきゃな。賭け屋に行く前に目を通しとかなきゃならない。それにしても昨日の晩だ。店で2人の男が話を聞かせてくれ、と言って来た。身なりのいいやつらだ。その後は酔っちまって何を話したか憶えてない。店を出た時のことも、どう帰ったのかも…。

-北アイルランド、ベルファスト 1988年2月-
その週末、俺は釣りに行くか、サッカーを観に行くかぐらいの予定だったんだ。だが奴から電話がかかってきてこう言うんだ、ちょいとスペインまで行って一仕事してきてくれないか?それが始まりさ…。

現在時制である2008年の老人の一人称の語りと、そこから20年遡る過去の回想が交互に綴られるという形でストーリーが進んで行く。その回想の方は、老人の語りに出てくる2人組に語られているもののようである。老人の語りということで、かなりくだけた感じの口調でダラダラと割と重要でない日常的なことが延々と書かれ、その中に不意に重要なことが混ざってくるような、ちょっと意図的に読み難い形で書かれていたり。話が進むにつれ、実はこの語り手の老人はかつてIRAの末端の細胞として動いていて、回想で語られる20年前のある出来事により、以来素性を隠し逃亡生活を送っているらしいことが見えてくる。ちょっとネタバレになってしまうのだが、敢えて書かせてもらうと、物語の最後になってもこの男は一体自分が何に関わり、どういうことが起こったためにそれだけの長い年月を経て人生の黄昏まで孤独な逃亡生活を送らなければならなかったのか、全くわかっていない。そしてそれが意味があったのかすらもわからない歴史の中で押しつぶされた一人の男の悲しみを滲み出させる、ちょっと異色のノワール作品なのである。

作者Steve FinbowはかのSnubnose Pressからの著作もあった人ですが、『ネクロフィリアの文化史』みたいなノンフィクションらしきものや、アレン・ギンズバーグの評伝といった本も出している、ミステリジャンルというよりはもう少し広い周辺的なところからの作家のようです。中でも米Amazonの著者ページに出てくる『Love Hotel City -12 authors/12 vision of Japan-』という彼が参加しているアンソロジーが気になるのですが、版元Future Fiction Londonがもうなくなってしまっているようで詳細がさっぱりわからず、12 authorsのメンバーすら不明になってしまっている。日本の作家もいたのでしょうか?
というわけで、1,2作共に結構異色作感のあるNumber Thirteen Press。続いて第3弾です。

The Mistake/Grant Nicol

Number Thirteen第3弾となる作品ですが、現在のところFahrenheitからはKindle版は未発売。まあいずれ何らかの形で出ることは確かなのだが、その辺の事情については後述いたします。

■あらすじ
雪のアイスランド、レイキャヴィーク郊外で事故に遭った車両が発見される。シートベルトを着用していなかった女性がフロントガラスを破り投げ出され死亡。逆さになった車内で発見された男性は、辛うじて一命をとりとめる。
そして9年後…。

仕事に出かけるべく支度をしていたGunnar Atliは、いつものように頭痛に悩まされる。そして、次に気が付いた時は、アパートの入り口の雪の路上に倒れていた。すぐには動けず、辺りをそのまま見渡す。ゴミ缶が動かされている。明らかに後ろの何かを隠すように不自然に。後ろに見えるのは、足?マネキンじゃない、人間のだ!そこには全身のいたるところを切り刻まれ、痛めつけられた全裸の少女の死体が捨てられていた。そして、パトカーが到着する…。

捜査に当たるのはレイキャヴィーク警察のGrimur Karlsson。少女の遺体とともに発見された男Gunnar Atliは9年前の事故で一命をとりとめたものの、長い治療生活からやっと社会復帰したばかりで頭部への障害の後遺症で現在も医師の監視下にある人物である。遺体の身元である家出少女とは面識がないと言っていたが、捜査を進めるうち、2人には何らかの関係があったことも見えてくる。知らせを受け到着した少女の父親はAtliに向け憎悪を燃やす。果たしてAtliは少女殺害の犯人なのか?
タイトルが示すように、この作品のテーマはミステイク。一つのミステイクが一人の男の人生を破滅させ、彼はそれに苛まれ続ける。そして、また新たなミステイクが悲惨な結末をむかえる。
結構前にちょっとブツブツ言ってたのがこの作品。この作品舞台がアイスランドと人気の北欧系だったり、ひとつ問題点があったりで、妙な奴に読まれて勘違いの「酷評」をされるんではないかと心配してたのである。で、その問題点。この作品Fahrenheitから他に3作発行されているGrimur Karlssonシリーズの第2作となっているのだが、実はこの作品ではGrimur Karlssonは捜査には携わるものの、そのキャラクターについてはあまり書かれておらず、その人物像を表すような背景や私生活といったようなものも全くと言っていいほど書かれていない。しかし、その辺の理由については割と簡単に推測でき、つまりそれはこの作品そもそもはGrimurシリーズとして構想されたものではなかったが、せっかく新たに立ち上げた自分のシリーズキャラクターのプロモーションにもなるし、ということで物語の展開上不不可欠な捜査を担当する警察官にこのGrimur Karlssonを当てはめたという事情なのだろう。そもそもメインシリーズとは別のパブリッシャーから出ているものだし、ちょっとしたカメオ出演に近いものと考えその辺は割り引いて、Grimur Karlssonについてはいずれメインのシリーズを読んでみればいいか、というのが真っ当な読書人の取るべき行動であろう。しかし世の中にはいつまでたっても辛口気取りがミステリ通に見えるという幼稚な考えから離れられず、とにかく欠点をひとつでも見つけたらそこに固執した「酷評」で「どうだい、オレって見る目あんだろー。」という顔をすることしか考えない馬鹿者もまことに多い。大体さあ、いくらか読書ってもんに慣れれば色々な本のそれぞれの欠点なんてものは見えるようになってくるんだよ。それをボクも「批評」ができるようになったと思い込むのが幼稚な証拠!他人の本に関するレビューを見る人は、世に隠れたミステリ通さんなんかを捜しているのではなく、この本にはどんな読みどころがあるのか、自分の読みたいような本なのかを知りたいんだよ。そういうものも見つけられないようならそんな駄レビュー垂れ流す資格はないし、それが自分に見つからない本ならわざわざレビューする必要も無し、ということ。この作品に戻り、その辺の上手くいってない要素も見分けつつ、ミステイクの連鎖がもたらす悲しい結末という中心テーマをきちんと見据えれば、このGrant Nicolが読む価値のある優れた作家であることもちゃんと見えてくるのですよ。
作者Grant Nicolは実は元々はアイスランドの人ではなく、ニュージーランド出身。こんな赤ちゃんばかりの国はウンザリだとニュージーランドを飛び出し…、あっこのネタは以前にも使ったか…。とにかく子供の頃お父さんの転勤で無理やり連れていかれたわけでもなく、自ら進んでそんな寒そうな国に移り住みここを生涯を過ごす地に決めたという大変な変人。…いや、アイスランドのことを悪く言うつもりはないのだが、何度も言ってるように私寒いのが大変苦手なのだもの…。そして、2014年よりアイスランドを舞台とするこのGrimur Karlssonシリーズを開始し、現在第4作まで刊行中。で、現在はKindle版品切れになっているこの作品についてですが(画像はペーパーバック版より)、そもそもはNumber Thirteenから発行の際にはNumber Thirteenの共通スタイルに合わせたカバーで出ていたのだが、途中からシリーズ物の一作であることをわかりやすくしたいとの作者の意図により、Fahrenheitのものに合わせたカバーに変更されたという形で、もうほとんどそちらに組み込まれていたようなものなので、現在が一時的な品切れ状態でいずれはFahrenheitからの再発行のあることは明らか。ただ、Fahrenheit 13立ち上げの際、Grimur Karlssonシリーズはおそらくはすでに獲得している読者の傾向などからも考えてだろうと思うのだが、ノワール色の強いのFahrenheit 13には移らずそのままFahrenheit Pressからの発行となっている。そんなわけでこの『The Mistake』はFahrenheit 13ではなくFahrenheit Pressの出版スケジュールの方に組み込まれていて、現在一時的な品切れ状態となっているのでしょう。とかごちゃごちゃ考えていたら、とりあえずFahrenheitの本体のショップの方ではもう販売されてたり。多分アマゾンでもいずれ販売されると思うのだが、どうなのでしょうか。だんだん頼りなくなってきたり…。トホホ。ニュージーランド出身ではあるが、やはり当地の空気がそうさせるのか、完全に北欧物というテイストの作風で、オリジナルを作者自身の言語で読みやすいシリーズとして、北欧物ファンは手に取ってみてはいかがですかな。おお、珍しくきれいにまとまったじゃん。やればできるじゃないか、オレ。
※ちょっとGrimur Karlssonシリーズについてはよく把握してなくて少し雑に調べては何度も書き直していたのですが、最後の最後にまた出てきてもう文章修正してつなげるのが面倒になったので別に書きますが、現在Kindle版で発行中の第5作となっている『Tales From The Ice House: An Anthology』はよく見たらシリーズ1~4の合本だそうです。これから読もうという人にはとりあえずこちらがお得。こっちに入ってるから『The Mistake』のKindle版出てなかったんだね。

Grant Nicolホームページ

以上3作が初期Number Thirteen Pressのラインナップ、いずれ劣らぬ個性的な作品ばかりで、イギリスのこのシーンの層の厚さを感じさせるものでありました。…ってホントは去年ぐらいに言ってなきゃなんなかったんだよな、まったく…。まあ、かくしてNumber Thirteen Press作品という形で追っていくことはできなくなってしまったわけですが、もちろん言うまでもなくこれはステップアップの進化である。つーわけでこれで何とかちょっとだけでも借りを返せたということにして、今後はこれまでのNumber Thirteen作品をも含む新生Fahrenheit 13の進撃を深く注目して行くものであります。

というわけで何とかかんとか片を付けたところで、最初にお約束しました現行Fahrenheit 13のラインナップについて軽く解説。現在2018年4月時点でFahrenheit 13作品は全21作。Number Thirteenからの作品が9作、280 Steps残党組が5作、残り7作がFahrenheit PressからFahrenheit 13への移行組という内訳となっております。まあ今の時点ぐらいしか意味はない区分けだが、自分的にはどれから読もうかなー、という目安にはなったり。とりあえずこの順番で改行ぐらいの区分けはしときます。まあどれも早く読みたいのには変わりはないが、以前その数の多さゆえに手をこまねいていたFahrenheit Pressものが少し手が付けやすくなったか。まずはJo Perryの犬の表紙のやつとか読みたいっすね。しかし、こうして自分の好みのノワール系がFahrenheit 13へまとまったからといって、Fahrenheit Press本体を無視してよいわけではない!280 Steps残党ながら13へは移行しなかったSeth Lynch作品もあるし、今年になって出版された公募作品によるアンソロジー『Noirville』もかなり気になる。そもそも今回登場のGrant Nicol、Grimur Karlssonシリーズだってまだ読まねばならんしね!立ち上げよりほぼ3か月、毎月13日の発行でここまでは3冊ずつNumber Thirteenタイトルを再発し、このペースだと来月でGrant Nicol『The Mistake』を除く全12タイトルがそろうわけなのだが、さてそこからが見物!一体このChris Blackが何を出して来るのか?とりあえずは期待しつつ見守りたいところです。英国ノワールの新たな動きに注目すべし!

さてさて、如何かね?一昨年の秋ごろにはかの『Thuglit』が終了し、昨年春からはBlasted Heath、280 Stepsの相次ぐ撤退をお伝えし、その度に奴らが倒れても新たに彼らの遺志を継ぐ者は現れるのだ、と言い続けてきたものだが、「そうは言っても実際にはちょっと盛り上がってた小パブリッシャーのノワールなんて終わるんじゃねーの?」とか思っていたのでは?ならば見よ!英国ノワールのこの快進撃!ああ、Near To the Knuckleについても早く語らねば!そして昨年秋の登場より気を吐き続ける『Switchblade』は早くも第5号を発行!アンソロジー戦線には新勢力『EconoClash Review』も参戦!更に、Down & Out傘下になり息を吹き返した我らがAll Due Respectからは本年の出版予定が発表され、そこにはその辺のシーンで頭角を現してきたやつらの名前がずらりと並ぶ!(All Due Respect;ADR’s 2018 Schedule)世にノワールの血を受け継ぐ者があり、ノワールを求める声がある限り、ノワールは絶対に終わらんのだ!今後も当方もふんどしやら紐ビキニやらを締め直し、奴らの闘いをお伝えし続けるものでありますよ!

Fahrenheit Press/Fahrenheit 13

【その他おしらせの類】
いや、何つったってまずはこれしかないだろう。遂に出ました!エイドリアン・マッキンティ、ショーン・ダフィ第1作『コールド・コールド・グラウンド』!!まずとにかくは、早川書房が目を覚まし、小手先の瞬間的な効果しかないばかりか場合によっては誤解により無意味にシリーズ全体の評判を落としかねない情報に頼るような売り方をやめてくれたことには本当に安堵しているよ。ちょっとあんまり言い過ぎたんで誤解している人がいるといけないから言っとくけど、その情報自体が悪いと言ってるわけではないし、今までもそんなことは一言も言っとらん。私は最初から、あまりその作家の情報も得ないまま、その作家の作風とはちょっと異質な情報ばかりが独り歩きしているのを真に受けた、上にも書いたようなケチをつけることしか考えていない低劣な輩が無意味に作品を貶めることにより、やっと翻訳が出た本当に優れた作家の作品の今後の出版継続が阻害されることを危惧しているだけなのである。とにかくまずは何より。私もオビもきちんとつけたまま読んでおります。まあとにかく書店で見つけた日にすぐに購入してはあるのだが、読みかけのを先に片づけたりで、まだやっと読み始めたばかりで感想の方は、次々回にというところなのだけどね。しかしそろそろ感想とか出てるところもあんのかな?まあ当方としては変なもん見ちまうとなんかもう物理的にぐらいに健康に悪影響を及ぼしかねないんで、一切見る気もないし、この画像のアマゾンのリンクもそれ取りに行ってうっかりなんか見ちまわないようにかなり早めに持ってきてるしね。次々回はこれをコピーすればよし。しかしまだまだ序盤ながら、のっけからのマッキンティ節にマッキンティノリにもううっとりだよ。ちょっと読み始めた人なら気になってるだろうアレについてだけは言っとくか。序盤から会話の中でちょくちょく出てくる返事の「あい」ってやつ。これはもう英国方面のものを読んでりゃおなじみの「Aya」ってやつなんだろうな、と思いながら、アマゾンでKindle版のプレビューをダウンロードして照らし合わせてみたところ、やっぱりそう。実際のところかなりよく目にするやつだし、なんだか正確には思い出せなかったりするのだけど、多分アイルランド限定ではなくてもう少し英国近辺で広く使われていると思うのだけど。何とか辛うじてきちんと思い出せるところでは『ザ・ボーイズ』のスコットランド出身であるウィー・ヒューイもよく使ってたはず。アイルランド限定じゃないけど、源流というとこなんだろうかなと思う。まあその辺詳しい人もいるんでしょうね。もしものために、とりあえず推測で適当に言ってごめん、とは言っとく。会話の中で独特のリズムという感じになってるものだけど、そんなに意味はなくて、わざわざこんな感じの違和感のあるのを作らなくてもその場に応じて「ああ」とか「うん」とかいくらでもやりようはあるところ。だが、私は敢えてこれを評価するよ。これは全く違う文化環境の全く違う言語で書かれた作品なのだよ。そこには独特のリズムもありそしてそれゆえに美しい文章なのだが、それをそのまま日本語に変換しようなんていうのは土台不可能。だが多くの誠実な翻訳者は、それをなるべくオリジナルに近づけたいと努力する。そしてこれはその誠実な努力の一つである。多少違和感はあっても、まあちょっと変わった挨拶をしてるところなんだろうな、と思ってればすぐに慣れる。だが、なんかこれを翻訳ケチ付けポイントとしてチェックして「最後まで気になった」ことにしようとしてる奴いそうだよねえ。あーやだやだ。意味だけ抜き出して日本語で書けば翻訳が出来上がるなんて思ってる奴は結局本をあらすじレベルでしか読めない連中とたいして変わらないんだよ。しかし、ワシもなんだかいつもこんな言い方ばかりするから角が立つのかと思うので、今回はちょいとよくあるお笑い風にやってみようか。翻訳ミステリレビューあるあるー。なんか海外の友人だかあの世の達人だかに勧められたとか言って始めて、さも俺は英語がわかるからって感じで翻訳だけこき下ろし、ろくな感想も書かず尊大に何か言ったような顔してる奴ー。どおー?笑えましたー?
それからちょっと読んだあたりでダフィが新聞でヨークシャー・リッパーの記事を読んでるシーンがあったのだが、なんだか日本限定タイムリーな感じで先日CrimeReadsってところにマッキンティのデイヴィッド・ピースのヨークシャー四部作についての評が掲載されました。ちょっとあっちこっちバタバタしててまだちゃんと読めてないのだけど、興味のある人はこちらからどうぞ。(CrimeReads:The Grim, Potent World of David Peace)

続きましてコイツ。何か新しい情報見つけたらとにかく知らせる作家のひとりドゥエイン・スウィアジンスキー情報です。遂にスウィアジンスキーの作品があのHard Case Crimeから!と言っても前にもお知らせしたTitan ComicsでやってるHard Case Crimeブランドのコミックス・シリーズの一つなのだけど、文句のあるやつはいないよな?もはや脅迫口調…。タイトルは『Breakneck』!今年8月から刊行開始とのこと。そして第1号のカバーはなんとあの数々のHard Case Crime作品の素晴らしいカバーを描くFay Daltonのこれです!大変楽しみですよね。ねっ!
そしてスウィアジンスキー関連でもうひとネタ。こちらはまた世界のジェイムズ・パタやんのwith作品。子供向けのお笑いなのかな?かなり強烈なユーモアセンスのスウィアジンスキーだが、お笑いメインのものは読んだことないので、これはこれで楽しみ。これはいつものBookshotsではないようだけど、同様にパタやん自身による出版のようです。しかしこのくらいになると自費出版ではなくオレ様出版社っすね。

とか何とかまたモタモタとボンクラなこと並べているうちに、ついさっき遂に奴がエドガーとっちまったじゃん!ジョーダン・ハーパー!去年ぐらいからずっと読もうと思ってたのに、また遅れを取った…。とりあえずはまた一昨年のクリス・ホルムみたいに電撃的に翻訳が出る場合もあるからもう少し様子見るか。こいつは前からワシが目ぇかけてる奴だからいい加減に出したり雑に毎度おなじみ○○の一つ覚えを始める奴がいたら承知せんからなっ!なんかまだマッキンティについては言っとかなきゃならんこともあるような気もするのだが、またちょっと遅れ気味だし、早く次もやらなきゃならんし、読まなきゃならんものも山積みなのだしで、今回はこの辺で終わるっす。ではまたね。


●Fahrenheit 13





●Grant Nicol/Grimur Karlssonシリーズ




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2018年4月10日火曜日

巨匠パット・ミルズ未来史シリーズ 第1回 -Invasion!-

以前よりやるやると言い続けてきたイギリスコミックの巨匠パット・ミルズの未来史シリーズ!遂に始まりました!その第1回『Invasion!』であります!

まず、パット・ミルズとは何者なのか?とりあえずこの国ではそこからはじめにゃならんだろう。最近創刊41周年を迎えた英国コミックを代表する週刊コミック誌2000ADの初代編集長にしてライター、そして41年を経た今でもメインライターのひとりとしていくつもの人気シリーズを持って活躍するコミック・レジェンドである!代表作には神話世界の混在する原始の地の無敵の”歪み”能力を持つ戦士の物語『Slaine』、食糧危機に陥いりタイムゲートを使い原始の恐竜を食料に供給し始めた未来社会が舞台の恐竜ウエスタン『Flesh』、さらに最近のものでは17世紀の魔術が横行する架空のロンドンを舞台に元水平派の闘士がゾンビと闘う『Defo』など、まだまだ私も届いていない名作・代表作も数知れず。しかし、その優れた作品の数々が日本では翻訳はおろかろくに紹介すらされていない現状。これでいいのか?日本はマンガの国ではないのか?ならばもっと広く様々な国のすぐれたマンガ=コミックについて知るべきではないのか?
そして今、巨匠パット・ミルズはその最も知られる代表作である『ABC Warriors』を中心に様々な作品の統合・再構成に取り組んでいるのである。これは、それらをパット・ミルズ未来史とみなし、それらを構成する膨大な作品群を読み、語ることにより、このパット・ミルズ後進国である日本に巨匠の偉大な業績を知らしめようという遠大な試みである。覚悟せよ!

ではまずこの未来史の現在進行中の概要についてから始めよう。まず、Volgan戦争である。ABC Warriorsの物語は21世紀末、長く続いたこの戦争の末期から始まる。ABC Warriorsのロボットたちはこの戦争の過程で作られた者たちなのである。ABC Warriorsの物語はそこから未来に向かって語られて行くわけだが、もう一方でそこから遡るVolgan戦争についての物語がある。それがVolganと闘う戦士Bill Savageを主人公とした『Savage』。現在の2000ADでは過去について語られながら進行して行く『ABC Warriors』と『Savage』が交互に1年おきに四半期12~3回の1シリーズずつ書かれている。自分も結局まだ2000ADを読み始めて日が浅いので、現在進行中の両者の関係を完全に把握して説明できるところまでは至っていないのだけど、『Savage』では『ABC Warriors』に至るまでのVolgan戦争について語られ、現行『ABC Warriors』ではその始まりから物語の現在時点に至るまでの語られてこなかった関係などを整理統合しながら物語が進んでいる、というような考え方で多分大丈夫だと思う。まあ、自分もそこのところをちゃんとわかるようになろうということでこれをやっているというところなのだけど。そしてそれら全ての物語が始まるのが、1999年のVolganによるイギリス侵略。そしてそれを描いたのが今回の『Invasion!』というわけなのであります。

この『Invasion!』という作品は、かの2000ADのまさに創刊号から約1年にわたって掲載されたのですが、ではこの作品はいかにして始まったのか?それについて、巨匠パット・ミルズがこのTPB版『Invasion!』まえがきにおいて詳しく語ってくれています。これはそもそもは2000AD創刊時のパブリッシャーIPCのジョン・サンダースという人の発案だとのこと。「ミルズ君、イギリスがソ連に侵略されちゃうって話をやろうよ!24時間の電撃的侵略で、空港とか制圧されてサッチャーも殺されちゃってさー!」「えー?なんでソ連がイギリスを侵略するんですか?」「石油だよ!奴らは我が国の油田を狙ってくるんだ!」ふーむ、なるほど。しかしイギリスが侵略されちゃうって話はなかなか読者にも受けそうで面白そうじゃないか。そして最初の数エピソードに英国屈指のアーティストJesus Blascoを起用し、着々と製作は進行して行くところで、サンダースからバッド・ニュース。「ごめん、ミルズ君。ソ連ダメだって…。」まあ、今の目から見ればそりゃそうだろ、もっと早く気づけよ、ってとこですが、1977年当時はそれでいけると思えた時代だったんだろうね。2000ADではジャッジ・ドレッドでも敵対勢力は東側SOVということだし、この時期のイギリスの国際情勢・国民感情とか研究するとちょっとした論文ぐらいになりそうだが、まあそれは置いといて、そういうことでそのつもりで進行していた侵略してくる「敵国」が使えなくなってしまったという事態である。そこで急遽作られたのが架空の敵国Volgan共和国!前にVolgan帝国とか書いちゃったけど、正しくは共和国です。だってVolgan Empireとか言ってるしさあ。場所はアジアの奥深くのどっか!おいっ!とまあアジアの一員である我々としてはツッコミも入れたくなるが、逆に考えればそんな謎の国が出てくるところ他に考え付かなかったんだろう。しかしまあそんなわけでVolganの兵士や将軍やらはアジアっぽい顔で出てくるのだが、それは最初のうちだけ。悪いやつの名前とかもモロにロシア風になってくるし、お金の単位がヴォルガマルクとか、アジアで侵略してくる国がそんな通貨単位使わんだろ。ともあれ、かくして誰もがこれ本当はソ連と思ってる架空の悪の国家Volganが創り上げられたのであった。さてこのVolgan、本当に悪い国である。何しろ国のマークがドクロ!俺たちは悪いことをする怖い国だぞ、と威嚇しているようなものである。1999年、20世紀の終わりに侵略してきたこんな悪い国を誰が止めるのか?結構前置きが長くなっちゃったけど、それではいよいよ『Invasion!』の始まりです!

1999年1月1日、アジアの奥深くからヨーロッパを侵攻してきたVolgan共和国が、電撃的にイギリスを侵略する!イングランド中部地方に撃ち込まれた5メガトン核ミサイル!そして続いて飛来した降下部隊により瞬く間にヒースロー空港は制圧。要人は次々と殺害され、英国王室はカナダへと避難、そしてVolgan共和国によりイギリスの征服が宣言される!
仕事で北部へ向かっていたトラックドライバーBill Savageは、この事態にロンドンストリートの自宅で待つ妻と我が子の元へと急ぎ帰宅する。だが、そこで彼が見たものはVolgan軍の無差別爆撃により崩壊した我が家だった。瓦礫の中から唯一無事だったショットガンを拾い上げるSavage。「俺に残されたのはこれだけか。」そこに現れたVolgan兵をただちにそのショットガンで射殺!おい!Savage、気でも違ったか?もう戦争は終わったんだ。イギリスは降伏したんだぞ!「ならここから再開させるまでだぜ!俺の戦争は今始まったんだからな!」

かくしてわれらがヒーローBill Savageは登場する。粗野で武骨、不作法、冷笑的だが人情、友情には篤い大変格好いい男である。あっちはアイルランドでごっちゃにしちゃうと失礼なのだろうが、かの『ザ・ボーイズ』ビリー・ブッチャーにも似たテイストがあったり、あとマイケル・ケインの映画は名作だけど、原作小説だけ読んでる時点では『ゲット・カーター』のジャック・カーターもこんな感じの人をイメージしてたりもしたのだが、まあ英国方面の男の中の男典型という感じなのかもしれませんね。高倉健より菅原文太だね。あと、話の流れで言うのが後になってしまったのだけど、巨匠パット・ミルズ未来史第1回って始めたけど、実はこの作品巨匠は編集長業も忙しく原案のみで、実際のライターはあの『Rogue Trooper』のGerry Finley-Dayだったりします。あと、今更だけど今回は多分最後まで書いちゃってネタバレすることになると思うので気を付けてね。一応ちゃんと全部書かないと先わかりにくくなるだろうからさ。なんか今回は色々と段取りが悪くて申し訳ない。

こうしてワンマンアーミーとしてVolganへの戦争を開始したSavageだったが、その腕と機転を見込んで、地下に潜ってレジスタンスとして動き始めた英国正規軍が接触を図ってくる。決まりだらけで上品な軍隊のやり方でVolganと闘えるか!まあレジスタンスにゃあ参加するが、俺は俺のやり方でやらせてもらうぜ。SavageをリクルートしたSilk中尉は、少し線の細いところはあるのだが、Savageには絶対の信頼を置くようになり、彼の相棒として活躍して行く。更にSavageは、港湾労働者、炭鉱夫らタフな労働者階級の猛者たちによる独立愚連隊Mad Dogsを率い、各地でVolgan相手の戦争を繰り広げて行くことになる。

序盤から中盤くらいまでは主に1話~2話構成でSavageとMad Dogsの活躍が描かれて行くという展開。まあとにかく独立愚連隊ものというのは燃えるし、実は実際には無い国の実際には無い侵略で、実際に起こったわけではないイギリス国民への暴虐に怒り、Savageの報復に快哉を叫ぶという、よく考えるとうむ?な状況ながらもテンションの高い話は大変楽しく読めるのだが、それゆえ1話当たりの熱量も高く4~5ページにもかかわらず割と1話読むとおなか一杯になっちゃって、という感じでなかなか進まなかったりしていたのだが、先は長いのだしこのままではいかん!とペースを上げ始めた中盤、スコットランドの構築された壁で囲まれた収容所になった町での戦い辺りから、基本的には1話完結ではあるけど、少し話が続いていく感じで読みやすくなってくる。と、書いてて今気付いたのだけど、こっちがあまりにイギリスの地理に不案内でわからなかっただけで、もしかしたら物語は最初から後半の地点まで移動して行く形で進んでいたのかもしれない。うむむ、こういうのって結構難しいよね。例えば『ドラゴンヘッド』とかも日本に住んでない人から見ると関東-東京に向かって移動して行く感じあまりわからないのかもしれないし、水戸黄門の1シーズンのここからここへの旅感もなかなか伝わらないのではないかと思ったり。いや、自分の失態を一般化してごまかそうとか言う意図ではないのだが。

そして物語は、Savageも危機に陥る恐るべきVolgaska大佐との闘い、頼りになるネッシー姐さんの登場などを経て高地地方にたどり着き、そこから終盤への展開が始まる。カナダに避難中の英国王室からレジスタンスへの支援物資を密かに運ぶ潜水艦に王子が同乗していたのだが、艦が撃沈、王子はカナダへと戻る手段を失い、あとはSavageらが王子を護衛しながらカナダへと戻す手段を模索して行くという展開になって行く。
そして最後は洋上の闘いで相棒Silkは命を落とし、さらに続く死闘の末、Savageは海を渡り無事に王子をカナダへと戻す。そして、その闘いの中、公海上でVolganの乗った船がアメリカの艦船を攻撃したことから、この戦争にアメリカの参戦が決定されたことが告げられ、物語は終わる。

なんかまた今現在の目から見ると、もっと早くアメリカが介入してきそうに思われるけど、1977年当時はこういう形になるだろうと思えたのか、それともあんまり早くアメリカが出てくると占領された国で侵略者と戦うという話になりにくいと思ってのストーリー展開なのかは、また今になってしまうとよくわかりにくかったり。なんか安全保障とかのことを考えると、後者で、第2次大戦ぐらいの感じでやりたかったということのような気もするけど。まあ基本的にはあんまり「今の目」とかでよく考えないでツッコミ入れて利口ぶるのは無粋ってことですね。
こういう国が侵略占領されちゃうっていうようなコミックって他にあるのかな、とちょっと考えてみたところ、我が国の第2次大戦中の実話を基にした沖縄の話のとか思いついて、ちょっとうーん…と思ったり。実際この『Invasion!』もイギリスではそういう方面から批判もあったというようなことも巨匠のまえがきにも記されています。でも戦争というのはひとつの極限状態での人間ドラマでフィクションとしては常に大変魅力のあるジャンルなのだよね。戦争についての物語を書く人は大抵はそれを通じて人間の勇気や誇りといったものを書きたい人で、戦争をしたがっている人ではないでしょう。まあ時には本気で戦争をしたがっているヤバいタカ派の人の本が世に出てしまうこともあるのだけどね。前のスプラッタパンクの時も言ったけど、こういうのを頭ごなしに批判して、自分が「悪」だと思ったものを自らの「正義」を振りかざし徹底的に攻撃し、撲滅しようなどと考える人たちこそが、実際には間接的にせよ戦争って言うようなものを引き起こしてるんだよ、っていうのが私の意見です。子供が見たら悪影響を、とか言うんだったら、自国が負けちゃったら競技の続きを一切放送しないオリンピック中継みたいなのだってスポーツの楽しさより歪んだ愛国心植え付けちゃうんじゃねーの、ぐらいの悪態はつかせてもらいましょうか。まあでもこの辺のジャンルは特にコミック/マンガではどんどんやりにくくなって、今はSF方面に舞台を移してるというところなのでしょうね。あと世界が侵略されちゃうみたいなテーマはもしかしたらゾンビものといった方向にシフトしてるのかも。ついでに言っとくと、この度の引っ越しでめでたく発掘された望月三起也著『夜明けのマッキー』は戦争物のナミダ物の名作だよーん。馬鹿者!望月先生の著作はすべて名作だっ!Kindle版ありますよ。

さてこちらの『Invasion!』、作画の方はと言うと、最初のJesus Blascoを始めとして大変すばらしい力強い白黒画のアーティストが続くのだが、2000AD以前から活躍のアーティストが多いのか、ちょっと現時点では当方ではわからない人ばかり。申し訳ない。もっと深くイギリスコミックについて学ばねば。中でIan Kennedyとかは私も朧気に知ってる英国コミック・レジャンドか。あとシャープで陰影のコントラストの強いCarlos Pinoとかもきっと人気あったんだろうな。デジタル時代の今ではめったに見られないガーゼ・テクニックによる迫力ある描写など、大変見どころも多い作品です。
ストーリーの方は、途中で思い出して付け加えたように、巨匠ミルズは編集長も兼ねていて多忙ゆえに原案のみで、実際のシナリオは『Rogue Trooper』のGerry Finley-Day。しかし『Rogue Trooper』の双方化学兵器やらを使いすぎて防護服なしでは人間が生存できない星での戦争なんて、安直なお題目だけの「反戦主義者」が絶対思いつかない究極の反戦SF設定だよね。Gerry Finley-Dayはその後、1979年に『Disaster 1990』という『Invasion!』以前のSavageの活躍を描いた(Volgan戦争とは関係ないらしい)シリーズを手掛けています。全20話ということなので80~100ページぐらいになるのか。今調べたところによると、一度単行本化されて、その後2013年にJudge Dredd Megazineにも再録されたらしい。その後、最近の増刊やらで見るような形でワンショット的な復活はあったのだろうが(このTPB版にも一編収録。しかしライター、作画ともUnknownって…?)本格的に巨匠ミルズがSavageを復活させるのは2004年から。こちらはまだちゃんと読めていないので、物語がどこから始まるのかもわかってないのだけど、2015年冬期のBook Ⅸでこの『Invasion!』では終わっていなかったイギリスの占領からの解放が描かれるというあたりだけは目撃しております。こちらについてはいずれちゃんと最初から読む予定ですので、今回はシリーズがそのような形で書き継がれているという情報だけ。

それから、2000ADでは過去と現在の名作を紹介するThe 2000AD ABCというのもYOUTUBEの方でやっており、今回の『Invasion!』と続く『Savage』を紹介してるのがこちら。っていうかそれをもっと先に見せるべきだったか?


もうちょっと画を見せられればなー、というときにこういうのがあるといいですね。また機会があったら使わせてもらおう。

それではこの巨匠パット・ミルズ未来史第1回、最後に未来史らしく年表を掲載いたしましょう!

巨匠パット・ミルズ未来史
1999年 Volgan共和国がイギリスを侵略。
Bill Savageレジスタンスとして立ち上がる。


こんだけ?、ってこれから増えるんだよっ!まだ第1回なんだから!というわけで、何とか始まりました巨匠パット・ミルズ未来史シリーズ!やってるのがホント当てにならないやつで大丈夫かよ、と思われる向きも多いと思いますが、何とか全力を尽くしこの英国コミックの至宝について詳しく語って行く所存であります。そして次回第2回はいよいよABC Warriorsが登場!巨匠ミルズによる未来史再構成が始まる『Volgan War』!えーと、引っ越しで色々中断して遅れてるところもあるのだけど、ここから頑張りなるべく早くの登場を目指しているところでありますので、ご期待ください。で?お前まえにご期待くださいとか言ってたアレとかアレはいつやんの?ううううるさいっ!ちゃんとみんなやるんだよっ!待っとれ!ごめん…。

今回、もうちょっとこのブログも何とかすべきだろうか、とぼんやり色々見ていたところ、なんか翻訳機能というのがあるのに気が付いたので、装備してみました。これで東北や九州出身の皆さんもお故郷の言葉でこのブログも読めるようになるでごんす。あれ?そういう機能はないの?まあ、なんぼか少なからずぐらいは海外からのアクセスもあるので、いろんな人にいくらか読みやすくなるのではないかと思います。それにしてもそもそも日本語として相当出鱈目でまともに変換されない言葉を多用する私の文章がちゃんと翻訳できるのだろうか?どうせなら全部語尾に”だっちゃ”を付けてもっと翻訳されにくくするのはどうだっちゃ?お前読んでもらいたいのかよ?もらいたくないのかよ?…外国で放送されているラムちゃんはきっとだっちゃって言ってないのだろうな、と思いながら今回は終わります。ではまた。

あと、今回につきましてはアマゾンでのプリント版で入手困難なものも多く、またKindle版でも日本ではかもしれないけど発売されていないものもあり、ちゃんとリストを作るのが困難ではあったりするのですが、どうしても画像の並んだかっこいいリストを作りたかったので、2000AD Onlineからの画像を使って無理矢理作ってみました。一応デジタル版に関しましては同Webショップまたは各機種でリリースされている2000ADアプリショップからすべて入手可能です。


●関連記事

2000AD 2015年冬期 [Prog 2015,1912-1923] (後編)

2000AD 2016年秋期 [Prog 2001-2011]

●巨匠パット・ミルズ未来史関連
■Savage

Invasion!

Savage: Taking Liberties

Savage: The Guv'nor

■ABC Warriors

ABC Warriors: The Mek Files 01

ABC Warriors: The Mek Files 02

ABC Warriors: The Mek Files 03

ABC Warriors: The Mek Files 04

ABC Warriors: The Solo Missions

ABC Warriors: The Volgan War Vol. 01

ABC Warriors: The Volgan War Vol. 02

ABC Warriors: The Volgan War Vol. 03

ABC Warriors: The Volgan War Vol. 04

ABC Warriors: Return to Earth

ABC Warriors: Return to Mars

ABC Warriors: Return to Ro-Busters

■Ro-Busters

Ro-Busters Vol 1

Ro-Busters Vol 2

■Nemesis The Warlock

The Complete Nemesis The Warlock: Volume 01

The Complete Nemesis The Warlock: Volume 02

The Complete Nemesis The Warlock: Volume 03

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