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2015年9月23日水曜日

Hellblazer -Jamie Delano編 第2回-

長らくお待たせしたのか、このブログとしては早い方なのかというところですが、『Hellblazer』 -Jamie Delano編-の第2回であります。まあ、1回でやるつもりだったのを引っ張っているのだから遅いのか…。前回はJamie Delanoのこの作品における作風についての考察だけで終わってしまいましたが、今回はちゃんと内容の方に触れつつ、オカルト探偵ジョン・コンスタンティンを主人公としたこの物語がハードボイルドなのか、というあたりも少し考えてみようと思います。

【Original Sins】

では、まずはハードボイルドの方から始めてみます。別にそれほどこだわっているのではないのだけど、例えばこの主人公はオカルト探偵ということですが、探偵というのもいろいろあって大抵の人はまず探偵と聞いたときもう少し別の種類のを思い浮かべたりするのではないでしょうか。そういう色々ある探偵の中で考えると、このジョン・コンスタンティンという人の出で立ちは明らかにハードボイルド派の物なのですよね。まあ、そんなわけでこのハードボイルドバカがちょっと考察してみるのもいいかな、と思ったわけです。
ハードボイルドについては前回の大混乱の中でも色々うじゃうじゃと述べたわけですが(あっ無理に読まなくてもいいです)一つ重要になっているのがモラルという要素です。善悪が曖昧な世界で主人公の探偵がそのモラルの軸となるというのがハードボイルドの一つの側面ですが、この物語のように神や悪魔というものが現れ人間のモラルが通用しなくなるような世界にはそんな探偵像がふさわしいのかもしれません。
ではジョン・コンスタンティンとはどんな探偵なのでしょうか。まず探偵という形から思い浮かべられる依頼を受けるための事務所といったものはなく、秘書や助手というものもいません。そして、『Hellblazer』の舞台はアメリカではなくイギリスではありますが、私立探偵免許というようなものももちろん持っていません。仕事というものも友人の友人の友人とかが何か妙なことに巻き込まれ、それなら魔法とかカルトに詳しい奴がいるよ、と紹介されたり、友人から妙なことが起こっているのを聞きつけ、儲けになりそうだと出向いて行って顔を突っ込むというようなことになるのでしょう。(なぜ推測的なのかはあとで述べます。)探偵と言えば探偵なのだけど、案外魔法ゴロとかいう方がしっくりくるかも。このようなルーズな感じの探偵像というのは、ハードボイルド方面だと70年代のネオ・ハードボイルドというあたりがあるのですが、それよりもっとポピュラーなのはロバート・アルトマン/エリオット・グールドの映画『ロング・グッドバイ』でしょう。発表当時は原作とあまりにも違うヒッピー探偵のフィリップ・マーロウが物議を醸したりもしたようですが、その後の主に映像方面でハードボイルドに限らず、探偵・刑事などのキャラクターに多くの影響を与えた作品です。ジョン・コンスタンティンの見た目のモデルはスティングということでエリオット・グールドとは全然違いますが、やはりキャラクターとしては『ロング・グッドバイ』以降のハードボイルド派の探偵像に属するのではないかな、と思います。以上、わりと消去法的な考え方をしてみても、とりあえずジョン・コンスタンティンは『Hellblazer』が始まった時点においてハードボイルド派のキャラクターとして想定されていたのだろうと考えて良いのではないかと思います。

では、実際の作品の内容の方を見てみましょう。と、やっと内容の方にたどり着きました。
『Hellblazer』最初の話は通常の倍の42ページの第1号と次の第2号に渡るストーリーです。友人のGary Lesterが儲けになると思ってアフリカから持ち込んだ悪魔がイギリスで暴れ出し、人々を猛烈な飢餓で暴れさせた後に餓死させるという事件が起こり、コンスタンティンはアンダーグラウンドの顔役でもあるアフリカ系の呪術師Papa Midniteの力を借り、自分の能力を越えた事態に怯えるばかりのGaryに悪魔祓いをかけるという話。冒頭、コンスタンティンのアパートのバスルームで大量の虫にたかられるGaryのJohn Ridgwayによる画はかなりのインパクト。Garyはもう完全に魔法ゴロという感じのルーザーですが、実は後に述べるニューキャッスル事件の生き残りでもあります。またこの時点では語られませんが、同事件の犠牲者を含むコンスタンティンの過去に関わる死者たちの幽霊が現れコンスタンテインを悩ませるという場面もあります。コンスタンテインは友人に対し非情な決断を迫られます。
続く3号では財テク悪魔が人間に化けたり操ったりで地上での資産運用を図るが、悲惨な死を遂げた失敗した者の調査にコンスタンティンが関わってくるという話。コンスタンテインは彼らの元締めの悪魔と口八丁で渡り合います。
という感じで出だしのストーリーはオカルト系ハードボイルドと言ってもよい雰囲気のものです。しかし、この後4号からこの"Originai Sins"のパートのメインのストーリーであるDamnation ArmyとResurrection Crusadersとの抗争に進んで行くにつれ、コンスタンティン自身が事件の当事者的立場になり、ハードボイルド的な様相は薄れて行きます。ハードボイルドに於いて必ずしも主人公が事件の傍観者的立場でいる必要はないのですが、この物語の中では主人公コンスタンティンは事件の展開に押され、翻弄されるばかりでなかなか軸となって行動するということができません。そしてそのようなコンスタンティンの立場はこの"Original Sins"だけではなく以降のパートでも同様のものとなってきます。そこで上に書いたコンスタンティンの仕事の推測に戻るのですが、これ以降のJamie Delanoによる『Hellblazer』の中では探偵ジョン・コンスタンティンが依頼により事件を捜査するという状況がほとんど(全然かも)出てこなくなるのです。そんなわけでこれ以降のJamie Delanoによる『Hellblazer』は、形式的にも内容としても少なくとも私の感想としてはハードボイルドとは違ったものではないかな、と思います。やはり前回述べたようなJamie Delanoのこの『Hellblazer』における作風は少しハードボイルド的なものとは異なっており、それゆえにDelanoがコンスタンティンというキャラクターを掘り下げストーリーを進めて行くうえでハードボイルド的なものとは違った作品になって行ったのだろうな、というのが私の結論です。ただし、私といえどもいくらそのジャンルが好きでもハードボイルドこそが最高の作品形態ですべての作品がそうあるべきなどとは思っていませんし、このJamie Delanoの方法論によって作られたコンスタンティンというキャラクターはとても好きですし、ストーリーも高く評価していることは言っておきます。そして上で述べた通り、シリーズ開始当初の設定としてハードボイルド的オプションもあったと思われるので、この先別のライターによりハードボイルド的な作品が書かれる可能性もあるのではないかなと思います。

と、少しやるつもりがまたずいぶん長くなってしまったのですが、ここからはちゃんと内容の解説に移ります。また最後までは行けなそうだけどなるべく頑張ろう。
4号からのストーリーは、まずコンスタンティンがエキセントリックな女性Zedと出会い恋に落ちるところから始まります。しかし、実はこのZedはカルト教団Resurrection Crusadersの巫女というようなものになることが決定されている女性で、そのことによりコンスタンティンはその教団に深く関わって行くことになります。そして4号のメインのストーリーはコンスタンティンの姪のGemmaがもうひとつのカルト組織Damntion Armyにさらわれ生贄にされるという話。Gemmaの両親であるコンスタンティンの姉夫婦はResurrection Crusadersの信者となっていて、そのことで彼女は家に居場所を求められず孤独を感じているところをDamnation Armyに付け込まれます。最終的にはZedの協力も得てコンスタンティンはGemmaを救い出すのですが、両カルトともに不穏なものを感じます。コンスタンティンの家族関係についてはJamie Delanoによるパートの後半でより深く語られて行くようになります。
ここで登場した二つの対立するカルトは観念的な宗教集団ではなく、一方のREsurrection Crusadersは科学・医学といったものを絡めたオカルト的な方法で神・天使との繋がりを模索しており、そしてDamnation Armyは現実の悪魔Nergalによって率いられています。続くストーリーではまずResurrection CrusadersがZedの説得に現れ、続いてDamnation Armyも配下の人間を奇怪な異形に作り替え彼女を襲わせます。Zedの身に迫る危険を心配するコンスタンティンは、友人であるホモセクシュアルのRay(3号に登場)に彼女を匿ってもらい自分はこの教団の調査に出掛けます。(6号)
コンスタンティンの友人としてはここで1号にも登場しているChasも登場します。武骨な感じの侠気のあるタクシー運転手で、一応コンスタンティンには借りがあるようですが、その後も度々登場して一方的に助けてくれます。コンスタンティンの友人としてはその後も唯一生き残って登場してくるキャラクターになります。
そしてコンスタンティンは友人でニューキャッスル事件の生き残りの一人でもあるRitchieに会い、電脳空間でのResurrection Crusadersの調査を頼みます。コンピューターからの電極を頭に取り付け電脳空間に入るという描写は今見ると多少陳腐に見えますが、何しろ25年前の作品ですからそんなところにこだわっていても素直に作品を楽しめなくなるだけですので深く突っ込むのはやめましょう。電脳空間に入り調査を始めたRitchieは予想外の反撃に遭い、全身黒焦げになって死亡します。こうしてまた一人、ニューキャッスルの生き残りは失われて行きます。一方、Resurrection CrusadersはZadの居所を突き止め、強引に彼女を連れ去ります。止めに入ったRayは殴打され死亡。そのことはまだ知らないまま失意のうちの帰途についたコンスタンテインは帰りの列車内で再び彼の過去にまつわる死者たちに苛まれ、遂には走行中の列車から飛び降りてしまいます。(7号)
コンスタンティンが目を覚ますとそこは病室で、彼は全身骨折で一歩も動けない重傷で寝かされていました。そこに悪魔Nergalが現れます。まったく動くことができず、また一方で死亡したRayやRitchieの件でも嫌疑をかけられているコンスタンティンに、Nergalは甘言と脅迫で取引を持ちかけます。追いつめられやむなく承諾したコンスタンティンに、Nergalは自らの血液を注入。すると大怪我はたちまち癒えてコンスタンティンは病院から逃亡します。(8号)
苦悩の末、悪魔Nergalとの取引を実行するため、コンスタンティンはResurrection Crusadersの施設に侵入し、儀式を待つZadに会いに行きます。そして自らの身体に悪魔の血が流れていることを隠したままZadと交わります。巫女である彼女を悪魔の血で汚すことにより予定されていた教団の儀式を破壊することがNergalの目的だったのです。(9号)
以上が"Original Sins"のストーリーです。抜けている5号はスワンプ・シングに会った後立ち寄ったアメリカの田舎町で、コンスタンティンがその町に住むベトナム戦争帰還兵の男が呼び寄せてしまった亡霊部隊の出現に出くわすという話。Resurrection Crusadersへの言及も少しありますが別の独立したエピソードです。
"Original Sins"全体を通じて作画を担当するのはイギリス出身のアーティストJohn Ridgway。『SWamp Thing』、『The Sandman』やグラント・モリソンの『The Invisibles』など、イギリス出身の作家の有名作にも多く参加しています。それは今見ると古い画に見えてしまうけど、カラーリングの手法や考え方も違っていた時代で、独特のペンによるタッチで初期『Hellblazer』の世界を作り上げた優れたアーティストだと思います。

【The Devil You Know】

冒頭からコンスタンテインが幽体離脱状態でうろつき始めるというわけのわからない展開で進み、最初はかなり戸惑います。少し進むうちにコンスタンティン自身の記憶が戻ってきてスワンプ・シングの大地に種を植え付けるという計画に協力してこの状態になっていることが説明されるのですが、実際にコンスタンティンがどうなっているのかは画的には説明されないまま幽体離脱状態のコンスタンティンを追って行く形で話は進みます。
実は前の9号のラストでアパートに帰り着いたコンスタンティンの前にスワンプ・シングが現れる場面があり、これはそれから続く展開だったのです。植物の精霊であるスワンプ・シングは部屋にあった植物性のものであるタバコの葉で身体を作り上げて現れ、コンスタンティンは「おいおい、これから俺が一服付けるやつがなくなっちまったじゃねえか」と机から煙草の巻紙を見つけ出しスワンプ・シングの身体からつまみ出した葉でタバコを作るという、それまでの重い展開から一転したユーモラスなシーンが描かれます。「貴様は全ての生物が危機に瀕しているときにもそういうジョークをかますんか!」とスワンプ・シングに胸倉摑まれたり。ただその辺の「種を植え付ける」という話は私自身がまだ『Swamp Thing』をあまり読んでいないので今ひとつよくわかりませんでした。何か勘違いがあったらすみません。
幽体離脱中のコンスタンティンはResurrection Crusadersに向かい、そこで自分の行為がZadに予想以上の深刻な結果を与えたのを目の当たりにしてショックを受けます。そしてそこに潜んでいたDamnation Armyのスパイが引き戻されて行くのを追跡し、Nergalの許へたどり着きます。しかしNergalも隠れて様子を窺うコンスタンティンをすぐに察知し、すぐに逃げ出した彼を追撃します。なんとか自分の身体に逃げ戻ったコンスタンティン。一方スワンプ・シングの方は、コンスタンティンの身体を使い人間の恋人と交わる過程で大地に種子を植えるという計画だったようですが、行為が達成される前にコンスタンティンが自分の肉体に戻ってしまったのでそちらもご破算になってしまいます。Nergalとの戦いに手を貸してくれと頼むコンスタンティンを、スワンプ・シングは奴は自分と戦うつもりが無いとして突っぱねます。そして立ち去るコンスタンティンに向かい自分にも聞こえたNergalの言葉を告げます。「ニューキャッスルを忘れるな。」自宅に戻ったコンスタンティンを迎えたのはDamnation Armyによって惨殺されたアパートの大家と住人の死体でした。そして、彼はもはやNergalとの対決が避けられないものであることを知ります。(10号)
コンスタンティンはニューキャッスルを訪れ、過去の陰惨な結果に終わった自らの失敗を回想します。若き日のコンスタンティン。そして同様にオカルトと音楽にのめり込んだ怖いもの知らずの友人たち。彼らはかつては有名なミュージシャンを多く輩出したが今は閉鎖されているクラブを訪れます。勝手にドアを蹴破って中に入った彼らが見たものは異常に引き裂かれた多くの死体と踊り続ける少女の姿でした。少女の父親たちが夜毎に行っていた退廃した儀式が悪魔を呼び寄せ、彼ら全員を虐殺し少女をこの場に捕えていたのでした。コンスタンティンは仲間とともに悪魔祓いを試みるのですが、生半可な知識ゆえの未熟さで悪魔を抑え込むことができず、少女を救うことにも失敗し、多くの友人を喪います。そして、その悪魔が最後に告げた自らの名前がNergalだったのです。(11号)
Nergalと戦う方法を模索するもなかなか解決策が見つからず苦悩するコンスタンティンの元に、ガス会社からの請求書という形で死んだと思われていたが実は電脳世界で意識が生存していたRitchieから連絡が届きます。Ritchieの協力を得たコンスタンティンはNergalを電脳空間を通じて天使の領域に追い込み、天使たちの手で遂にNergalを破滅させます。(12号)
というところで悪魔Nergalとの闘いは決着するのですが、この後にもう1号"The Devil You Know"の終章となる13号があります。それが良い意味でも悪い意味でもこれがJamie Delanoというようなすさまじい異色作なのです。
Nergalとの戦いを終え一応は心に平安を取り戻したコンスタンティンは家族連れやカップルでにぎわう海岸を訪れる。少し子供の頃の思い出を回想したりもしながら。すると突如対岸の原子力発電所が爆発!海岸は放射能に汚染された地獄絵図に変わる。そしてコンスタンティンは出会った一人の女とその海岸で暮らし始める。奇形化した生物を食料に捕獲し、身体は放射能で日々爛れて行く。やがてその女性は妊娠し、頭が二つあるアザラシの子供を出産する。生まれてすぐにコンスタンティンの手を逃れ海に向かうその子供は、空から飛来した骸骨鳥の群れにたちまち啄まれ始める。あとを追うコンスタンティも歩くうちに白骨化し、海へと進んで行く…。最終ページ、目を覚ましたコンスタンティンはそこが元の平和な海岸ですべてが白昼夢であったことを知る。
環境論者でもあるDelanoが大きなストーリーラインの合間に当たる1号を使い通常のストーリーとは別に放射能の恐怖を訴えた作品、というのがもっともな単純な解釈ですが、何かそこにとどまらないこの作家の根幹を成すかもしれない幻想や暗黒が垣間見える一篇です。
このパートの作画はペンシラーとしてRichard Piers Rayner。やはりイギリス出身で、のちに映画化もされた『ロード・トゥ・パーディション』の作画を手掛けます。幽体離脱シーンなどの少しシュールな表現にも優れたアーティストです。この人のもう一つの特徴としては人間の表情を通り一遍のパターン的なものからさらに広げてもっと中間的だったりもするものを表現しようと試みること。えー…意欲としてはとても尊敬するのですが、結果的にはちょっと変な顔がよく見られてしまうのが残念なところです。そして後に『Fables』などでもペンシラーとして活躍するMark Buckinghamがインカーを担当しています。


ということでHellblazer Jamie Delano編 第2回でした。また少し遅れてしまったが…。とりあえずは続きになっている最初の2パート、"Original Sins"と"The Devil You Know"について少し詳しくストーリーを解説してみました。また少し長くなってしまったハードボイルドうんたらもとりあえずはジョン・コンスタンティンのキャラクター考察の一つぐらいにはなったのではないかと。続く3パートはあと1回でできるかな。間にグラント・モリソンやニール・ゲイマンのも入るからやっぱりあと2回になるかな。とりあえずなるべく早く進めるよう努力しますのでまたよろしく。


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