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2016年9月27日火曜日

Adam Howe / Die Dog or Eat the Hatchet -期待の大型新人のカントリー・ノワール!-

こちら少しおなじみになってるCrimespree MagazineのWebサイトのレビューで見つけたのですが、まあ一目見て、このカバー!このタイトル!どうか私の好きなやつであってくれい、と祈りながらあんまり本の内容を見ないようにざっとレビューを読んでみたところ、まず文中にJoe Lansdaleの文字、続いてDonald Ray Pollock!それだけ聞けば十分じゃわい!とただちにアマゾンでKindle版を購入。そして結構前倒しして自分としてはかなり早く読んでみたのがこの作品Adam Howe作『Die Dog or Eat the Hatchet』です。そして、その直感に間違いなし!なんとも恐るべき新人作家の登場です。ハズレ無しの3本の中編からなるこの作品集、まずはそれぞれのあらすじから紹介。



1. Damn Dirty Apes
アメリカ南部の田舎町Bigelowの元ボクサーReggie Levine。栄光の時は過ぎ、現在はストリップバーの用心棒として暮らしている。ある晩、看板ストリッパーElizaを守るため暴走族Damn Dirty Apesと乱闘を繰り広げるが、背後からの一撃で撃沈。俺も年か…。
酒場の奥の部屋でふて寝し、ようやく目覚めた翌朝、突進してきたピックアップ・トラックが店に突っ込んでくる!車から転がり出たのはElizaとそのボーイフレンドのLester。

「スカンクエイプだ!Nedがスカンクエイプにさらわれた!」

フットボールの花形選手だったLesterと着ぐるみを着てチームのマスコットをやっていたNedはハイスクール時代からの悪友。使い古しのマスコットBoogaloo Baboonの着ぐるみをもらい下げたNedは今でもその着ぐるみで酒場でふざけまわっている。この二人、今度はElizaを加え、着ぐるみポルノを作ろうなどと思い立ち、森で撮影を始めたところ、スカンク・エイプに襲われNedが連れ去られてしまったとのこと。ビデオ(ポルノシーンを含む)を見てみると、確かに何かの巨大な影に襲われ、Nedが連れ去られているところが撮影されている。それが本当にスカンクエイプかは不明だが…。
ただちに保安官に連絡し、捜索隊も出されたが、Nedは発見されず。ちょっとしたニュースにもなり、州外にまで報道され始める。そしてあの男、伝説のスカンクエイプ・ハンターJameson T. Salisburyが町に現れる…。

スカンクエイプというのは、アメリカに実在(?)する未確認生物。UMAの中ではちょっとB級らしい。私は知らなかったのだけど、そちらの方に興味のある人には常識なのでしょうか。この作品集では一番長く、ほぼ半分の長さの作品で、残り2作がその半分ずつという構成になっています。あとがきの作品解説の中でも作者Adam Howeのランズデールへのリスペクトが語られていますが、この作品は最もランズデールの影響が感じられるユーモアとバイオレンスに満ちた傑作。また、巻末に詳しく書かれていますが、実はこの伝説のスカンクエイプ・ハンターにはモデルがいて、かなりエキセントリックな人物だったようですが、同好の士には深くリスペクトされていて、S. P. N. A. S. A.(The Society for the Preservation of the North American Skunk Ape)という組織から激しい抗議を受け、一時は出版も危ぶまれたとか。

2. Die Dog or Eat the Hatchet
女子寮で5人もの女性を無残に殺害し、逮捕後は精神医療施設に収容され4年間沈黙を守ってきた殺人鬼Terrence Hingleが脱走する。途上のダイナーで、閉店後一人片付けをしていたウェイトレスTilly Mulvehillを誘拐。Tillyをトランクに隠した彼女の車でHingleは逃走を続ける。そしてその先には彼自身も想像できない恐るべき運命が待ち受けていた…。

表題作でもあるこの作品は、3作の中でも最もハードなゴア描写の多いバイオレンス・ホラー。犬も登場。ちなみにこのタイトルは、ちょっと私は見たことがあるのか思い出せなかったのだけど、ランズデールの小説の中に登場するある種の常套句ということらしく、ランズデール本人も快諾の上、使用されたということです。

3. Gator Bait
1930年代、禁酒法時代のアメリカ。ピアノ弾きSmittyはヤバい女に手を出し、2本の指を失い街から逃げ出し、ルイジアナの沼地に流れ着く。片足の密造業者Horace Crokerが経営する、巨大なな鰐の潜む沼の上に立てられた酒場で、その腕を買われピアノを弾きとして雇われるSmitty。その酒場に囚われたように暮らす若く美しいCrokerの妻Grace。そしてCrokerはその沼に住む巨大な鰐Big Georgeとの因縁について語る…。

あらすじを見て気付かれた通り、かのジェームズ・M・ケインの古典的名作ノワール、プラスワニ!


といういずれも優れた中編3本。で、私がこの人の何をそんなに買っているかというと、この人とにかく上手い!と言うのか本当に良く考えて丁寧に書かれている。ここまではまっすぐストーリーを進めて、ここでねじって、ひっくり返して…、というのがそれぞれの作品で本当に良くできているのです。中編にしてはずいぶんあらすじを書いちゃったように見えるかもしれないけど、ここから本当に楽しめます。これは新人作家にしては、というものではなくベテラン作家だったら「さすが○○」とか言われるぐらいのもの。で、こういうのって初めてドゥエイン・スウィアジンスキーの『The Wheelman』を読んだ時にも感じたもので、私がなぜスウィアジンスキーを天才と呼ぶかというと、ちょっと「走り幅跳び」というのを例に使って説明してみようと思います。走り幅跳びというのは助走して踏み切り、そのスピードや勢いを乗せてジャンプの距離を延ばすという競技ですよね。(前提の説明で少し自信がなくなってきたり…)で、運動神経のない人はこの1)助走と2)踏み切ってジャンプをきちんと連動できなくて、助走して踏み切るところでスピードも落ちてそれを乗せられないで跳ぶ、ということになるわけです。まあ、運動神経ゼロは極端かもしれないけど、大抵の人は小説を書こうと思ったりしないから、これを普通の人とすると、運動神経のいい人というのはこの理屈をすぐに理解し、体もそういう風に動くわけで、こういう人を小説を書ける人とするわけです。そして、天才というのは見ただけで理解するし、そもそもこういう能力を生まれつき備えたような人。つまりスウィアジンスキーという人はこのように、ストーリーをうまく組み立てて語る、というような能力を生まれつき備えているような人に見えるのですよね。そしてこのAdam Howeという人も「本当に良く考えて丁寧に書かれている」というようなところをもしかすると才能として持っている人ではないかと思うわけです。ただ実際にはとても頭の良い人で、じっくり考え、推敲を重ね、という努力の結果できているものかもしれないし、その辺についてはそんなに確信をもって言えるわけではないけど。このAdam Howe氏、現在のところこの前にもう一冊中編集と、あとはあちこちのアンソロジーに短編を発表ぐらいのまだ新しい作家なので、少なくともかなり初期の作品からそれができている将来有望な才能ある作家と見て間違いはないだろうと思います。
まず構成の方が先行してしまいましたが、ご覧のようにアイデアにもとても優れ、描写もある時はユーモラスに、そしてとても恐ろしくそれぞれの場面で秀でた技量を見せてくれます。実は直感などと言っても、粗削りだが何か一点突破的な突出したものを持った作家ではないかぐらいの期待で読み始めたのですが、あまりにテクニック的にも優れた作家で驚いたというところ。その後Crimespree Magazineのレビューもよく読んでみると、何か最近のインディー系でいいのはないかと色々聞いてみたところこれを勧められた、みたいな書き出しで、注目も集まり始めているところではないかと思われます。なんだか要領を得ない例えを出したり回りくどく語ってきてしまっているのですが、とにかくこの作品集まず面白い!それを先に書けよ…。まだまだ新人でパブリッシャーも小さいが、かなり将来性の見込める作家の、絶対読んどかないと損するよっていう初期作品集です。

さてこの優れたカントリー・ノワール作品集の作者Adam Howeなのですが、実はロンドン在住のイギリス人。Garrett Addams名で「Jumper」という短編小説でスティーヴン・キングのライティング・コンテストで優勝しているそうです。それからしばらくは映画の脚本家を目指し、少しブランクのあった後小説を書き始めたということ。ちょっと詳しい年代が分からない。受賞作もアンソロジーで出ているらしいのだけど見つかりませんでした。小説再開後は、まずあちこちのアンソロジーに作品を発表。あの『Thuglit』にも19号に登場しています。そして、2015年11月発行の本作の前に、3月に同様に3本の中編から成る作品集『Black Cat Mojo』を同Comet Pressからリリースしています。現在は初の長編に取り組んでいるそうです。この作品集の3本同様『Black Cat Mojo』も動物テーマの作品集のようで、そのスタイルも気に入っているようですが、あまりそのイメージが強くなりすぎるのもということでそろそろ一旦はそのスタイルの封印を考えているらしい。
画像はComet Pressの著者ページからのもので、ちょっと恐ろし気な感じなのだが、巻末の作品解説は本当に気さくで、何の影響で思いついたなどのネタばらしも楽し気に書いてくれています。こういう自作に対する愛着というのは大変好感が持てる。これからもこんな感じで楽しく書き続けて、近いうちにすげーモンを見せてくれるに違いないと期待しております。まずは早く『Black Cat Mojo』も読んどかねば。そして初の長編にも期待!
あと、下のリストについてなのですが、中編集2冊の他にこの『Die Dog or Eat the Hatchet』に収録されている『Gator Bait』が先行して単品で出ているのですが、間違って買ってしまう人がいると悪いので省略してあります。内容は同じだと思いますのでご注意を。

版元のComet Pressについてはあまりよくわかってないのだけど、ホラー、ダーク・クライム、といったジャンルの作品を出版しているあまり大きくないパブリッシャーのようです。イギリスのパブリッシャーかと思っていたのだけど、Comet Press.usとなっていたのでアメリカなのでしょうか。.usってもっと違うの意味?ホームページを見に行くと大変楽しいエログロカバーが並んでおりますが、ちょっと作家が今のところは全然わかりません。とりあえず注目は今年5月に出たAdam Howeやジェフ・ストランドなどの作品が収録されているアンソロジー『Year’s Best Hardcore Horror Volume 1』あたりからか。なかなかホラーの方には手が回らないのだけど、できれば注目して行きたいパブリッシャーです。

この英国からも優れたカントリー・ノワールが登場という現在の状況を受け、当ブログでもカントリー・ノワールのカテゴリを作りました。なーんかまたカントリー・ノワール原理主義者とかが出てきてカントリー・ファム・ファタールについて語り始める前に、片っ端から放り込んでカオスにしちゃう所存です。
そしてこのAdam Howe君の傑作『Die Dog or Eat the Hatchet』ですが、現在のところは翻訳する必要なし!どうせまだ「スティーヴン・キングのコンテストで優勝!」ぐらいしか肩書のないところでそんな帯付けて出してみたところで、「スティーヴン・キングの名前を見て読んでみたのであるが」って新人作家の作品をおりこうポイントのボーナスステージだと思ってる「である系」どもがしゃしゃり出て重箱の隅をつつく「辛口」感想で台無しにし、この先出てくるAdam君の大傑作の翻訳を遅らせるだけの話。目利きの人は早めに押さえて、いずれ「あー、あのアダムなら中編集2冊出たあたりから目を付けてたぜ」って言ってやろうじゃないの、ってことです。

Comet Press


【その他おしらせの類】
またしても…。『ニック・メイスン』ではなく『ニック・メイソン』でしたね…。気付いていない間違いが一体いくつあるやら…。解説にもあったように、過去・現在の時間、シカゴという街、そして主人公ニックの契約の謎の3軸による立体パズルを見事に組み立てて行くところはさすがスティーヴ・ハミルトンという感じ。結構広い層にも読まれそうなハードボイルドが出てよかったすね。
で、本題の予告していた『バッド・カントリー』ですが、まあのっけから低音でつぶやき続けるような素晴らしい文章で始まり、しまったやっぱり原文で読むべきだったか、と、せめてもと思いKindle版のサンプルをダウンロードしてみたり。別に訳が悪いとかいうわけじゃないけど、こうやってリズムも含め書いてるような文章のその部分はどうやっても再現難しいわけだし。自分のように日々読みたい本が増えるような馬鹿者は、どうしたって一生かかっても読みたい本は全部は読めないだろうなと思うので、基本的にはそっちの方が早く読める翻訳が出てくれるのは助かるのですけど。しかしコーマック・マッカーシーが好きだからってここまで恥ずかしげもなくスタイルを真似しちゃうっていうのもなんだけど、それでもやっぱり自分なりの語りも出てくるわけですね。人間なんてみんな基本ロクデナシで善とか悪とかその時のロクデナシの度合いという感じ。唯一難を付けると、連続殺人の推理を話すところがあまりにベタな「ミステリ」臭かったのでもう一工夫欲しかったかというぐらいです。キャラ読みさんたちがどうせ犬のことばっか書くだろうから、あえてそっちには言及無し。大変すばらしいハードボイルド/カントリー・ノワールの翻訳が出てよかったです。次作の『Burn What Will Burn』は原文で読もうと思うけど、翻訳も出たら絶対買うので早川さんはまた出してね!
しかし『ドライ・ボーンズ』に続きこんないいのが出たらもう私の読みたいのなんか早くても来年の春ぐらいまで出ないだろうと思ってたら、北欧物『熊と踊れ』とか、タイトルに『虐殺』とかつけて大丈夫?とかすぐに出てたり。文春からはせっかく久しぶりに出たブリティッシュ・ノワールらしいのに女子の女子のうるさい『ガール・セヴン』とか。角川からもCrimespree MagazineのWebサイトの広告でよく見ててちょっと気になっていた『オーファンX』が出たりとか。もしかしたら日本でもこっちに風が吹いてるのかも、と思ったりするけど、だからと言ってまた「ホークがスーさんが」とか「スカダーはアル中の方が良かった」とかまるでブルーウンもスキップして2~30年ハードボイルドが冬眠保存されてたかのような言説が大仰に「時代」などを語るのだけは勘弁願いたい。んー、まずは早く『熊』が読みたいかな。あっ、いつまでももったいないとか言ってないで早く『カルテル』読まんと第3部が出てしまう!
あと、少し前にAnthony Neil Smithさん関係で書いたOolipoについての情報です。ドイツ発の新しい本のアプリで、Smithさんらのそれに向けた新作も書かれるということで期待していたのですが、どうやら9月初めごろからまだテスト段階(という言い方でいいのかな?プレリリースとか?)ながら始まっていた様子です。今月10日頃だったか、そーいやOolipoってどうなったんだ?とホームページの方を見に行ったらなんかもう始まってるみたいで、ならばとアプリをインストールしてみたというわけです。なんだよー、ちゃんと登録したんだから報せてくれよー。で、テスト段階のものですが、現在のところはまだiOSのみの様子です。現在のところ、7本のシリーズが出されていて、いずれも無料で読めますが、まだできてないところもあるようです。まあとりあえずは『Taste of Love』とか書いてあるのは放っといて『Apocalypsis』というのが読めるようだったので少し読んでみました。まず、ひとつのシリーズの中にSeasonsという項目があり、その中がさらにいくつかのEpisodesに分かれています。このシーズンがTVのシーズンに見立てたもので、本で言えば1巻2巻というのにあたり、エピソードは1話2話=1章2章ということなのでしょう。販売の方が始まれば、多分エピソードが順に一話ずつ販売され、シーズンが完結したらシーズン全体で売られるという形になるのだろうと予想されます。まずシーズンを買ってエピソードが順に配信されるのを待ちながら読むというのもあるかな。内容は基本的にはストーリーにそった画像の上に文字が表示されるという形。1ページは必ずしも一画面には収まらず、いくらかは下にスクロールし、ページが終わったらスライドして次のページ、と進んでいくようになっています。最初はよくわからず、まず表紙的な動画が出て、いつ始まるのかなと4~5周ぼんやり見ていて、思いついてスライドしてみたら始まりました。とりあえず音とかはないようです。まあ大体予想の範囲とも言えますが、いろいろ工夫次第では面白いこともできそうだし、とりあえずは新しい物で全面的に期待モードで迎えましょう。なんか本はダウンロードされてるようだけどまだ消去するところが見当たらなかったり、アカウント作成確認のメールが返信できなかったり(Click hereがクリックできん!)とかまだ問題は多いけど、いずれ改善されるものでしょう。iOSをお使いの人は早速インストール!「この緑に白い輪っかの乗ってるの何?」と一緒に怪しまれましょう。ちなみにSmithさんの『Castle Danger』は2017年ぐらいになりそうとのことです。気長に待とう。
今回のセールのお知らせは、Down & Out BooksのRob Brunet『Stinking Rich』が9月30日まで0.99ドル。Down & Outでは結構初期にリリースされたやつ。Down & Outはこの手のピックアップ作品半月ぐらいセールをよくやっているので、時々チェックしてみてはいかがでしょうか。ちなみにDown & OutではJ. L. AbramoのJake Diamondシリーズ第4作『Circling the Runway』が本年度のシェイマス賞ベストペーパーバックオリジナル部門を受賞。あとアンソニー賞ベストノベルはMulhollandのChris Holm『The Killing Kind』。あっ、同賞ベストペーパーバックオリジナル部門をエドガー賞に続き受賞したLou Berney『The Long and Faraway Gone』がまたしても1.93ドルでセール中!前逃した人は今度こそ。でもこのくらいになると翻訳出るかもね。この辺についても早く読みたいなあと思いつつ日々過ごしておりますです。

Oolipo

●Adam Howe



●現在セール中



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