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2016年10月23日日曜日

グレッグ・ルッカ / Alpha -Jad Bellシリーズ第1作!-

前回予告しました通り、今回はグレッグ・ルッカの小説最新シリーズ、Jad Bellシリーズの第1作『Alpha』についてです。2012年に今作、そして2015年に第2作『Bravo』の2作が現在発行されています。
まず最初に私の感想を言うと、今度はルッカ、結構スケールのでかい長編となるようなシリーズを仕掛けてきたんじゃないの、というところです。なぜ最初に感想を書いたかというと、実はこの作品多くの謎が書かれていない形で隠されており、それを指摘することによりその辺が見えてくるのですが、どうもそれをやってると若干ネタバレの危険性があるからです。ちょっとまた翻訳の出てないものでそれを言うのは何だとも思いますが、できれば本編の方を読んでからこちらを読んでもらえればと思います。とりあえずストーリーについては極力ネタバレのないように努めます。


そんなわけで今回は書き方の方もいつもとちょっと違う感じで進めていきます。まず、主人公Jonathan "Jad" Bellについて。アメリカ陸軍のデルタフォースの曹長。年齢は40代ぐらいで、半年前に離婚した奥さんとの間にはティーンエイジャーで耳の不自由な娘がいる。物語の冒頭ではアメリカの巨大テーマパークWilsonvilleの保安主任の職に就いている。まず最初はパークのカフェに勤める女子とベッドインする場面の合間に、過去の中東と思われる地域での作戦行動の回想が入り、この主人公は元々軍隊にいた人なのだな、と推測できるのだが、翌朝出勤してきたところで私服でも場違いな上官の大佐がパークに現れ、その会話でBellが現在も軍属で偽装して任務にあたっていることがわかるのである。
続いて少し時間を遡り、Bellがパークの保安主任に就職する経緯、続いてキャラクターおもちゃから始まり映画・TV産業を通じ拡大を続け現在に至るWilsonvilleの歴史、Bellがまずパーク内を案内される様子などが続く。この辺読んでるときはずいぶん説明が長いな、と思ったけど後に説明を入れられないスピーディーに展開して行くあたりで混乱がなかったので、自分的にはありだと思うけど、その辺は人それぞれかと。
そしてどうやらこのテーマパークでテロが計画されている可能性があり、Bellはそのためにここに潜入しているらしいということが見えてきます。しかし実際にこのパークでそれが起こるのか、というまでの確証はない模様。しかし、この作品の冒頭でこのパーク内で起きたある殺人事件が描かれており、その事件が何らかの関係にありこのパークでそれが起こる可能性も高いと推測されています。
そこでBellの耳の不自由な娘が、通っている聾学校のレジャー旅行で母親ともどもパークを、その近くでは最も事件が起こる危険性が高いと目される独立記念日の週の休日に訪れることとなる。んー、これって…。家族がテロなりの事件に巻き込まれ主人公である父親が奮走するって、ハリウッド・アクション映画のすげーベタなパターンですよね。しかも家族助かるって決まってる。なんか私とか映画でこのパターン出てくるとかなり続きを観るモチベーション下がるのだが…。まあ助かるのわかってるから安心してハラハラできるって層もいるのでしょうが。本当にルッカがそんなベタなのをやる気なの?しかしルッカという作家がその裏をやるとは思えないし。スウィアジンスキーだとコイツもしかしたら殺すかも、って若干の緊迫感はあるのだけど。などと疑問を抱えながら読んでいるうちに次々とその方向へのフラグが立って行くのです。

この作品は3人称で書かれ、主人公Jad Bellの他にも様々な人物の視点からシーンを切り替え書かれるというスタイルをとっています。その中でもBellに次いで重要なのがテロリスト部隊のリーダーとなる青年。この現在はGabriel Fullerと名乗る青年は、元々はロシアの少年ギャングのリーダーだったのですが、彼のいた世界では恐れられる謎の人物Uzbekにより強制的にスカウトされ、謎の仕事のためにアメリカに送り込まれます。そして彼はUzbekに命ぜられるまま、まずはアメリカに溶け込み、やがて年齢に達すると軍隊に入隊し軍人としてのスキルを身に着け、除隊後はUCLAへ通う学生として暮らし、とスリーパーとして長い年月を過ごした後、ある日Uzbekから任務を告げられWilsonvilleへと送り込まれます。しかし、その一方でGabrielはアメリカで普通の大学生として暮らし続けるうちにDanaという恋人もでき、その平穏で幸福な生活を守りたいと思い始めてしまう。そして休みはWilsonvilleで働くと言うGabrielに対し、それならばとDanaもWilsonvilleへ申し込み、二人は近くに借りたアパートで共に暮らしながらパークで働くことになる。そしてGabrielはこの任務さえやり遂げればDanaとの幸福な生活に戻れるのだ、という望みにすがりながらパークでのテロに向かって進んで行くことになります。
このように敵側に物語の最後に主人公により倒されるのを読者が望みながら読むような冷酷な悪役ではなく、どこか主人公同様に感情移入できてしまう人物を配置するというのは、Queen & Countryシリーズ第1作『A Gentleman's Game(『天使は容赦なく殺す』)』でのアラブのテロリスト青年でも見られたことです。これってもしかしたら現在のルッカの考えやスタイルなのかも、と思ったりするのですが、今のところは材料がこの二つと少なすぎるので保留。現時点で出ているこれの続編とQueen & Country2作の未訳の残り3作読めば少し見えてくるかも。

そしてこれらの登場人物も揃ったところでパークにテロが勃発!そして案の定元妻と娘も巻き込まれて行くという展開になって行くのです。

そしてここからがこの作品『Alpha』の謎。
まずこの作品ではデルタフォースの隊員である主人公Jad Bellが経営陣にすら極秘のまま、国内で潜入作戦行動にあたっている。そして後にはパーク内にはCIAのエージェントも潜入しており、協力して行動するようになる。軍とCIAが国内で?この疑問はある登場人物の頭に浮かんだりもするのだが、明確な答えは得られない。そもそもどのようにしてこの情報を得て、それがそれほどの重要事項とみなされ、このような作戦行動がとられたかについての説明は一切ない。
そしてもう一方の敵側。Gabrielに指示を出すUzbekの背後にはさらにすべてを取り仕切るボス、”名前のない男”と称する謎の人物がいる。いかにも悪役然として描かれる彼らの正体は不明だが、Gabrielの出発点などから見てもロシア、旧東側と目される地域に彼らの拠点があるのは確かと思われる。そして彼らは思想・政治的な動機で動いているのではなく、何らかのクライアントを得て、その手段などを提供し、テロを実行しているのだということも次第に見えてくる。そして彼らは最終的にはそのクライアントを裏切り、テロをそのクライアントも考えていないさらに大きな破壊的結末へ導こうとするのである。これはまるでいかにも悪役然として描かれた謎の人物らの悪意による行動のように読ませるのだが、その規模やそれに至るための手段などを考えると明らかにもっと大きな目的があるとしか考えられない。これに至る手段・手順も最低限しか描かれず、そしてこの人物・組織についての情報をどのような形でアメリカ側が入手し、それがなぜどれほどの重大事とみなされ、NSAとCIAが共同して動くほどの事態になったかの説明は一切なされていない。つまりこの作品、実は背景となる部分の説明がほとんどないのである。

さてこれをどう見るか?ただの雑な欠落?あの常に複雑な事態に追い込まれギリギリの活路を見出してきたアティカス・コディアックシリーズを書いたルッカが?あの国内外の様々な利害関係の軋轢の末、やっと行動に至る英国情報部マインダータラ・チェイスの苦痛に満ちた戦いを描いたルッカが?我々はグレッグ・ルッカという作家を知っているのだ。これはルッカが考えてなかったり、サボったり、雑に省略したものではない。明らかに意図的に書かなかったものである。そして前回Queen & Countryシリーズ第2回でも書いたように、彼はシリーズ内の連続性にこだわる作家であり、そしてこれはJad Bellシリーズと宣言され始まったシリーズなのだ。となればこれは今回は明かされない情報であり、そこから考えてシリーズが進むにつれ少しずつ謎は明かされ、更に話は拡大し、結構スケールの大きいものになるのではないか、と想像するのが妥当なところではないでしょうか!
そしてここで少し前の疑問に戻るのです。なぜルッカはこんなベタなハリウッド・アクションを書いたのか?これはつかみ、この作品全体が007映画で言えば冒頭の部分にあたるのではないか、というのが私の推測です。やっぱりルッカは描写も上手く、それぞれ別のキャラクター視点によるシーンの切り替えも巧みで、そういう物語をたいへんテンポよく読ませてくれるます。そして最後の最後、ある地点で主人公Jad Bellは恐るべき非情ともいえる戦士の顔を露にします。これが私の願望などによる強引な深読みの類ではないことは、クライマックスともいえるシーンが誰の視点で描かれているかを見れば明らか。そしてそのまま畳みかけるようにして結末へと向かい、いかにも「To Be Continue!」の文字が突き出されるようなエンディングを迎える。そしてここで!バーン!と!007のあの銃口の中からのオープニングが今入ったところなんじゃないの!というのが私の読みであります。

誰がコアラじゃ!コラアッ!
となれば早く次の『Bravo』を読まねば!…というところなのですが、このシリーズ今作が2012年で、次の『Bravo』が出たのが3年後の2015年、で第3作は当然『Charlie』となるはずだがこれについてはまだMulholland Booksの2017年冬の発売リストにも載っていないのであります。コミックの方でも忙しいルッカゆえ小説の出版はどうしてもスローペースに。まあ今のところ小説家グレッグ・ルッカに関しては、「いつ動くのかしら?」と動物園のコアラちゃんを見るような気長な気持ちで見つめて行くしかないところでしょう。
まあとは言ってもQueen & Countryシリーズコミック版を読み終えれば私としても早くそちらの続きも読みたいということになり、両シリーズをごちゃまぜに読むわけにもいかんので、Queen & Countryシリーズ小説版の続きに取り掛かる前に『Bravo』も読み終えるつもりです。そんなわけで今度Queen & Countryシリーズ第3回が登場する際には、続いてJad Bellシリーズ第2作『Bravo』という感じでまたしてもルッカ特集!という感じになると思います。まあ私の説がちょいと強引じゃないの?とあまり信じてない人もいるでしょうが、その時にはちゃんと証明してやろうじゃないの!んー、でも間違ってたらその時には素直に謝りますです。ごめん。

ここで日本でのルッカ観について一言。なんだかこの世のすべての事象はスポーツ選手のモデルケースで説明がつく!とでもお考えの先生が、アティカスシリーズはピークを過ぎて下降に向かっていたのでここで終わってよかったのである、と仰っておるのだがみんなそれ信じてるの?先生はシリーズの話の方向が変わったあたりがお気に召さないようでそこのあたりを「下降」とみなしているようだけど私は全然そうは思わなかったけど?前にも書いたけど、アティカスっていうのは明らかにルッカ自身の分身。で自分の分身ゆえにあまりにも色々なものを取り除くこともせずに乗せすぎちゃったためもはや現時点では身動きも取れなくなってしまい、まあ当分は無期限休止ってことで俺の分身よ異国の地でしばらくは静かに幸せに暮らしてくれや、っていうのがルッカの考えだろうというのが私の感想ですが。と言っても所詮はこっちも感想であっちも感想。反論で討論を望む!なんてつもりはまるでないのだが、但し!もしかしてその先生の御説が拡大解釈されて、「ルッカはピークを過ぎて下降に向かっている作家である」なんて考えが広がっているのでは?というところが私の危惧するところなのです。ルッカは前述の通り小説の出版ペースは遅いもののコミックとの両面で今も乗りに乗っている作家であるなんてことはもはや説明するのもめんどくさい。ただでさえ翻訳というハードルがある海外の作家の作品が、先生が得々と披露された御説による風評被害により作家自体の評価が根拠なしに下がり、出版が控えられるなんて事態になるのは迷惑千万としか言いようがないのですよ。もー先生お得意のその御説は、今後はピークを過ぎちゃっても出てれば誰でも手に入る日本の作家限定で使用願えないかというのが私の提言であります。

前から書いているようにアメリカでは小説とコミックの両面で活躍している作家が多数います。しかしその中でもルッカは少し特殊なように思えます。例えば小説家として人気が出た後コミックを手掛けるようになったスウィアジンスキーやヴィクター・ギシュラーといった作家はあくまでも小説の方をメインに置いてコミックの仕事もしています。またコミックのライターとしての才能をさらに広げた形で小説も書いているウォーレン・エリスという人もいます。それに対しそのキャリアの初期から小説とコミックのライター両面で活躍してきたルッカは、今でもその両者に同じウェイトを置いて活動を続けている作家なのだと思います。そんなわけで小説の出版ペースはどうしても遅くなるのだが、一方でルッカの作家活動は絶え間なく続いているわけです。となるとグレッグ・ルッカという作家をちゃんと追って行くためには小説・コミック両面で追っていかなければということになるでしょう。とりあえずはQueen & Countryを早く読み終わり次はImage Comicsで進行中の『Lazarus』か。少し遅れてしまいましたが今後はルッカ率が高くなるよう努力して行くつもりというところの2回にわたってのルッカ特集でありました。
以前も書いた通りMulholland Booksからのこの作品、日本からはKindle版は購入できないのですが、少し前に280 Stepsなどを調べているときに見てみたらKobo版は発売されているようです。辞書も使いやすいeBook版をという人はそちらを見てみるとよいかと。色々見てみると中堅以上ぐらいのパブリッシャーでは割とマルチで色々なeBook版を発売しているところが多いので、読みたい作家の本がAmazonのオプションで日本の発売がないというときはKoboを見てみると見つかるかもしれませんよ。ただ、MulhollandとかになるとあんまりeBook値引きがなかったりするので、日本と違って定価縛りのないプリント版ペーパーバックなどを探した方がお得なのが見つかるのだけど。あとルッカさんのホームページ、「ここ古くなったからそろそろ新しくする」って5月から言ってるのだけどいつ変わんの?

Greg Ruckaホームページ


【その他おしらせの類】
なんか前回色々きつくて余力がなく今回はいいやとか思っていたらお知らせが溜まってしまった。今回まずはあのHard Case Crimeがコミックに進出というニュース。過去の名作の発掘のみならず、最近はTVシリーズも始まり話題の『Quarry』シリーズ最新作も発行など、今や目が離せないHard Case CrimeがTitan Comicsと組みHard Case Crime Comicsシリーズの刊行を開始しました。なぜHard Case Crimeが英Titan Comicsからかというと、現在Hard Case CrimeはTitan Comicsと同じく英BBC系列のTitan Books傘下にあるからなのです。そしてその第1弾『Peepland』Issue1が10月12日発売されました。ライターはあの少し前にDown & Out『3 the Hard Way』のセールをお知らせしたGary Phillips。この人も小説・コミック両輪で頑張っていてルッカの後を追う人かも。今後はマクベイン、スピレインらの過去の名作も刊行予定ということで私的にはかなり期待が高まっております。Hard Case Crime印のコミック欲しい!

the Gurdian / Trigger warning: the return of sleazy crime comics

そして、先月書いたばかりの現在最も注目のAdam Howe君の長編第1作が発売決定!前作までと同じComet Pressから12月9日発売予定となっております。この作品では前に紹介した中編集『Die Dog or Eat the Hatchet』収録の傑作「Damn Dirty Apes」の主人公元ボクサーの用心棒Reggie Levineが再登場とのことで、かなり期待も高まるところ。発売されたらまた色々前倒しして早く読もうっと。Reggieシリーズの予定もあるのかな?やはりこのAdam君注目度も上昇中のようで、前に通りすがりぐらいの感じでちらっと書いた新進ミステリ作家によるグループのサイトDo Some Damageに作家Scott Adlerberg氏によるAdam君への新作発行に関するインタビューも掲載されています。実はこのAdlerberg氏、私同様『Die Dog or Eat the Hatchet』に感動し5月にもインタビューを同サイトで行っており、そちらはページ内にリンクがあります。とにかく何を置いてもこの最新作は読むべし!

Do Some Damage / Tijuana Donkey Boy: An Interview with Adam Howe

あとこれはセールとかなのかよくわからないのだけど、同Comet PressのホラーアンソロジーThingsシリーズ3作をまとめたボックスセット『Stiff, Sick and Vile Things Box Set - Three Complete Comet Press Anthologies in the THINGS Series』が現在404円で販売中。最新作『Stiff Things』に1ドル乗せたぐらいの価格なのでかなりお得かと。なかなかホラーまで手が回らず読めるんかなあ、とは思いつつもかなり期待していてもっと深く知りたいComet Pressゆえとりあえず買っときました。何とか少しずつでも読むよう努力したい。

そして最後に日本で私以外に関心持っている人いるのかも不明なドイツの新読書アプリOolipoの最新情報です!先週半ばごろ遂に最初のアップデート!色々変わったり、作品が増えたり減ったりしました。前回の報告で私がスルーした『Taste of Love』がなぜか消えてるのだけど、もしかしたらものすごくエロ過ぎてアップルから削除指令が下ったとか?なら読んどきゃ良かったよ。そして今回のアップデートで音が入りました!前回ちょっと読んだ『Apocalypsis』をもう一度見てみたところビュービューってな感じの吹雪の音がバックに流れるようになっていました。たぶんそれぞれの作品に合わせた効果音的なものが流れるようになるのでしょう。まだ読めない作品も多いようですが、今度はリリース日時なども書かれているので、今後は色々なのが読めるようになってくるのだろうと期待します。あと今回からこれまでいい加減になっていたアカウントをちゃんとしなきゃならなくなったのだけど、それが少しややこしくて、もしかすると私同様に少し困った人も地球上に一人ぐらいいるかもしれないので書いておきます。まず前のメールでちゃんと認証していなかったので、アプリ内の色々なところに出てきたアカウント関係の警告の下の方にある[RESEND](だったと思う)をタッチでもう一度認証用のメールを送ってもらいます。今度のやつはちゃんとリンクがつながっているのだが、ここで問題。私のようにPCではPC用のメールを使い、スマホでは携帯からのメールを使い続けているという状態で、習慣からアカウントを作る場合はPCのメールアドレスを使っているという場合、PCの方でメールを開き認証しようとしたりしますよね。この場合それだとダメでスマホの方でメールを開き認証しなければいけない。うーん、こういう説明になるとどうもうまくないのですが、とにかく[RESEND]で認証用のメールを送ってもらったら、同じスマホ上でメールを開き認証を送ること。これでちゃんとアカウントが使えるようになり色々読めるようになります。一人ぐらい困ってた人いるよね?えー?私だけ?

Oolipo

10月も後半になり、とうとう気温も下がって参りましたが色々と体調にはお気を付けくださいませ。まずオレ。寒さが極端に苦手で毎年ながらこれから年末に向かいペースダウンの恐れがありますが、書かねばならんことは沢山ありますので何とか頑張って行くつもりであります。ではまた。



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グレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第2回


●Jad Bellシリーズ



●Lazarus



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2016年10月15日土曜日

グレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第2回

ずいぶん間が空いてしまったのですが、グレッグ・ルッカ Queen & Countryの第2回です。前いつだったっけ?と見てみたら去年の12月…。まあ、私のブログなんてこんなんばっかりですが…ああ、あれもこれも早くやらなきゃ…。
しかし、このQueen & Countryに関してはちょっとだけ説得力のある言い訳があります。詳しくは後ほど書きますが、今回の『The Definitive Edition Vol.2』収録の作品を読んでいる途中で、ウィキペディアに書いてあった注意書きに従い、時系列的に前の『The Definitive Edition Vol.4』に収録のDeclassified Vol.1を読んだのです。で、やっぱり時系列的に前の話が収録されているこっちを先に読んどいたほうがいいだろうと考え、結局『Vol.4』の方を全部読んでから『Vol.2』を読み終わったというわけです。それなら『Vol.4』の方を先に書けばいいかな、とも考えたのだけど、そちらはタラ・チェイスの出てこない話ばかりなので、やっぱりそちらはとりあえず言及ぐらいに留め、主人公タラ・チェイスのストーリーを追っていった方がいいだろう、ということでこうなってしまいました。うむ!少なくとも自分は説得できた…。まあ、そんなわけですので、この先はもう少し早く進むと思うのでご期待ください。

それでは、第1回のThe Definitive Edition Vol.1に続き、今回はVol.2に収録の作品についてです。

●Operation Blackwall 作画 : Jason Shawn Alexander

本部長ポール・クロッカーが情報局合同会議のためアメリカ、ワシントンに出張中、SIS長官である"C"ことSir Willson Stanton DaviesからSIS特務課にミッションが依頼される。フランスでメディア関係のプロジェクトを進行中のイギリスの実業家Colin Beckが、娘Rachelのベッドシーンを盗撮したビデオにより、フランス側に有利になるよう事業を進めるよう脅迫されているということである。脅迫にはフランス情報部も関わっているらしい。そして、彼の娘Rachelはタラ・チェイスの学生時代からの親友でもある。政治の関わる行動を嫌うクロッカー不在ゆえ、代行であるマインダー1トム・ウォレスはミッションを受け、チェイスをフランスに派遣する。チェイスは脅迫のため雇われ、逃亡を準備していたRachelの恋人Andreを見つけるが…。

前回のOperation Crystal Ballの最後、ミッションを成功させ無事に帰還したマインダー3キタリングと微妙な関係にあったチェイスは、遂に一線を超えるのですが、やはりこの関係は仕事に支障をきたすと考えるチェイスは今回のストーリーの中でその関係を解消します。チェイスとキタリング、RachelとAndreの恋愛関係が交錯する一編です。
Jason Shawn Alexanderの作画はイラスト的といった感じの素晴らしいペン画です。作品の方はペンによる白黒ですが、ペイントによるカバーも素晴らしい。画家、イラストレーターという方が主な肩書のようですが、コミックも多く手掛けていて、Darkhorse、DCなどの他、最近のものではImage Comicsでストーリーも手掛けた『Empty Zone』があり、こちらは早く読んでみたいところです。

●Operation Storm Front 作画 : Carla Speed McNeil

ここでThe Definitive Edition Vol.4収録のDeclassified Vol.1の物語がストーリーに関わってきます。Declassified Vol.1は本部長ポール・クロッカーのマインダー時代の話で、時代は東西冷戦下、クロッカーはプラハである人物を西側に亡命させるというミッションに当たるのですが、任務は失敗に終わりその人物も殺害されます。このOperation Storm Frontでは、その人物の息子である実業家が誘拐され、その実業家とは面識すらないクロッカーですが、過去の苦い思いからなんとか彼を救いたいと考えることが話の一つの軸となって行きます。またDeclassified Vol.1では現在のクロッカーの上司であるSIS副長官ドナルド・ウェルドンもプラハの駐在員として登場します。現在はクロッカーと衝突の多いウェルドンですが、この時には上司の命令を無視し危機にあるクロッカーを助け、ただの官僚的というだけではないそれなりに気骨のある人物であることが示されます。

マインダー3キタリングが派遣中のベネズエラ、カラカスのホテルのベッドで死亡しているのが発見される。死因はくも膜下出血で、現地警察からも事件性はないとの報告が届く。
グルジアでロシアの実業家が誘拐される。当地で相次いでいる身代金目的の誘拐事件である。しかし、それがかつてプラハで自分が助けられなかった人物の息子であることに気付いたクロッカーは彼を救出すべく動こうとするが、副長官ウェルドンにSISの任務ではないと却下される。
一方、マインダー1ウォレスは、キタリングの抜けた穴を埋めるべくマインダー3候補を求め訓練所に赴き、Brian Buttlerを推薦される。マインダー3候補として任に就くButtler。一度はクロッカーの要請を却下したウェルドンだったが、上司"C"とも掛け合い誘拐事件の相次ぐ現地の治安調査の名目でグルジアへのマインダー派遣を認可する。そしてマインダー2チェイスと新人Buttlerがグルジアへと向かう。
現地警察へ赴き、あまり協力的ではない担当官と面談。そしてその夜、現地の駐在員との接触のためホテルを出た2人の乗る車が襲撃され、マインダー3候補Butllerは死亡、チェイスは一人現地に残される…。

関係解消後、ぎこちない間柄のままのキタリングの突然の死去は、チェイスの心に影を落とします。キタリングの死には不審なものが感じられるのですが、現在のところそれはそのままに置かれます。過去のクロッカーのミッションについては、会話の中で少し言及されるぐらいなので、やっぱりDeclassified Vol.1を読んでいないと分かりにくいかと思います。ウェルドンがなぜ今回に限ってクロッカーのために動いたのかも、過去の経緯を知らないと分かりにくいかも。
作画のCarla Speed McNeilは有名なWebコミック『Finder』の作者(現在はDarkhorseから発売中)。最近ではImage ComicsでAlex de Campiとの『No Mercy』でも作画を担当中。両作とも自分のいずれ読もうと思っているコミックリストに入ってるのではあるけど、ちょっとこの作品では気になる所が多かったり。ちょっと人物が寸詰まり気味なのと明るい表情のパターンが少なめな所でしょうか。主人公タラ・チェイスはあまり自分の心情を語る人ではないのでかなり表情などが重要だったりもするので。よく調べてみるとなかなか考えた人選ではあるのだけど、ちょっと今回はうまくいかなかったように思えます。

●Operation Dandelion 作画 : Mike Hawthorne

ここでまたDeclassified Vol.1の物語が関わってきます。ここまではSIS長官の"C"は前述のSir Willson Stanton Daviesという人だったのですが、ここで病気のため引退し、翻訳の出た小説版第1作にも登場するサー・フランシス・バークリーが代わってその任に就きます。実はこの人はDeclassified Vol.1ではプラハの現地駐在員の代表で、クロッカーのミッションが窮地に陥った時早々と本国に作戦失敗を連絡し、クロッカーを見捨てようとした人。その後KGBに暴力的に脅されたりして、クロッカーには若干の恨みも持っている人物です。

新人Buttlerがまだマインダー3候補の段階で死亡してしまったことにより、訓練所でも次の候補を見つけられず、SIS特務課はウォレス、チェイス2人の状態が続く。そんな中ウォレスは、そろそろ自分はマインダーを引退し、訓練所の教官となるつもりであることをチェイスに告げる。
SIS長官Sir Willson Stanton Daviesが病気により倒れ、次の長官はサー・フランシス・バークリーになるらしいとの噂が流れる。また、海外駐在員への予算も削られ、特務課の今後に暗雲が立ち込める。そんな中、キャリア官僚で各部門に発言力を持つWalter Secombeからクロッカーに会談の要請が来る。Secombeはクロッカーに自分の依頼を受けてくれたら予算面などで優遇を図ろうと申し出る。Secombeの依頼は、現在イギリスに滞在中の、ジンバブエの次期リーダーと目されるDaniel Mwamaについての調査だった。
ミッションを開始し、Mwamaに接近したチェイスとウォレスは、既に別部門の国内情報機関が動いていることに気付く。
そしてまた一方で、優秀な軍人ながらホモセクシュアルゆえに周囲との衝突が絶えず、SASを辞めることを決意したニック・プールが、上官の推薦によりマインダー3候補として就任してくる。

これまでのQueen & Countryシリーズの中でもひときわ人物の会話が中心となる少し難しかったりもする一編。ちなみにルッカは基本カコミによる解説・モノローグは使わず、情報は会話の中のものが主となるスタイルです。やっぱりこの作品もDeclassified Vol.1を読んでいないとクロッカーとフランシス・バークリーの関係とかよくわからないかも。
そのDeclassifiedの方ですが、とりあえずここまでの話ではVol.1だけ読んでおけば大丈夫です。Vol.2はトム・ウォレスの過去のミッション。Vol.3は今回から登場のニック・プールのSAS時代の話で、とりあえずのところメインのストーリーとは今のところ関係していません。前回まだあまりよくわかっていなくて「Declassified Vol.1~3は作戦行動のその後などを別のキャラクターが語るスピンオフらしい」などと書いてしまったのですが、以上のようにタラ・チェイス以外のキャラクターの過去の話というのが正しいところでした。すみません。ちなみにDeclassifiedについてはなぜかComixologyでもKindleでもデジタル版は未発売なのですが、MadefireというコミックのアプリショップではOni Press→Queen & Country内で全3作発売されています。…と思ったらこっちではあとのVol.7、Vol.8が未発売だったり。MadefireについてはiOS、Androidにはアプリがあります。本当はMadefireについてももっと詳しく書かなければと思っているのだが。なかなか至らなくてすみません。
作画Mike Hawthorneも自費出版によるコミック『Hysteria』で知られる人で、現在はマーベルのデッドプール物などを手掛けている人です。日本で出たのにもあるのかな。ちょっとカバーにはイマイチ感がありますが、個性的なシャープな線のそれほど悪くないアーティストです。この人については動きのある画が得意なようなのですが、前のCarla Speed McNeil同様作品内容的にちょっと本来の実力をうまく発揮できていない印象があり残念。


以上、『Queen & Country The Definitive Edition Vol.2』収録作品の内容でした。前回にも書いたのだけど、このQueen & Countryシリーズは連続したシリーズで、小説版も「キャラクターや設定をもとにして書かれた」というようなものではありません。作者グレッグ・ルッカの元々の意図もコミックから小説につながる作品を作るということだったのだろうと思います。グレッグ・ルッカは、アティカス・コディアック・シリーズを見てもわかるように、シリーズのエピソードごとにリセットされるタイプではなく、連続性にこだわりそれぞれの過去が主人公の上に積み重なって行くタイプの作品を作る作家です。タラ・チェイスはあまり自分の心情などを語るタイプのキャラクターではないと書きましたが、マインダー・チームへの信頼は篤く、メンバー間ではそれなりに率直な自分の考えを語る場面も見られるところも多くありました。そして、今回マインダー3キタリングを失い、マインダー1ウォレスも特務課を去ることになり、という様々な経緯を経た後、タラ・チェイスがマインダー1となっている小説版『A Gentleman's Game(『天使は容赦なく殺す』)』があるわけで、コミック版を呼んだ後にそちらを読むと少し違った印象のものになるのではないかと思います。自分もそちらを先に読んでしまったので、今回ストーリーの流れに合わせもう一度読んでみようと思っています。第3回『The Definitive Edition Vol.3』は『A Gentleman's Game』を間に挟む2つのエピソードが収録されていて、コミック版最終作Operation Red Pandaは『A Gentleman's Game』の直後から始まり、そのラストから小説版第2作『Private Wars』に続くということらしいです。次こそはあまり遅れないように頑張る所存であります。あ、あと第1回のOperation Morningstarの画像が変わってしまっていたのですぐに直しときます。たぶん後でアマゾンのリンクが変わってしまったのだと思うけど…。

ちょいと2000AD2000号に至るあたりで、自分的には結構頑張ってしまったもので少し気が抜けたというところで急に気温も下がり、少し体調を崩し気味で今回は遅れてしまいました。1週でできるぐらいの分量だったのだが。またここから気合を入れ直し頑張るものでありますです。次回はグレッグ・ルッカ特集!という感じで、引き続きルッカの、なんだかどこも出す気配がないのでJad Bellシリーズ第1作『Alpha』について書く予定でーす。ではまた。



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グレッグ・ルッカ Queen & Countryシリーズ -第1回

●Queen & Countryシリーズ
○コミック版

■The Definitive Edition(TPB)


■Kindle版



○小説版




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2016年10月2日日曜日

2000AD 2000号達成!

今週水曜日(2016年9月28日)、イギリスの週刊コミック誌2000ADのProg 2000が発行!1977年の創刊から通巻2000号が遂に達成されました!英国コミックの偉大なるランドマークがここに刻まれたわけです!(主に受け売り)その40年に達せんとする歴史に対して、わずか3年ぐらいの読者歴の私でありますが、その偉大なる2000号についてできる限りの解説を試みようと思っております。
とりあえず2000号ということで、今回初めて見てくれる人もいるかと思いますので、前から見てくれてる人にはもう聞いた話になるとは思いますが、若干の解説を加えながら進めて行こうと思います。また、もう少しよく知りたいという人は、一応2013年秋からの3年分ほどの記事がありますので、リンクをたどってそちらをご覧ください。作品名についたリンクは一番最近の掲載のものになっています。

まず2000ADについてですが、通例1年を大体四半期に分け、常に掲載されているJudge Dreddを除き、4本の連載シリーズが入れ替わる形となっています。そして通常32ページがデジタル版では複数のカバーも含む大増56ページの今回の2000号はその秋期の最初の号となっているのですが、掲載作6本のうちJudge Dreddを含む5本は特別ストーリーのワンショットで、最後の『Conterfeit Girl』のみがこれから年末まで続くシリーズの第1回となっています。

Judge Dredd : By Private Contract
 John Wagner/Carlos Ezquerra
2000号記念号ももちろん巻頭はJudge Dreddから始まりますが、今号は特別の趣向で各作品の前に2000ADのコミック・レジェンドたちの手による1ページが挿入されています。その内容は、2000ADのドロイドたちによって作り出された作品はそれぞれに個別の宇宙を作り現実に存在している、と語る宇宙人編集長Tharg閣下がそれぞれの作品宇宙をめぐるというもの。そしてその最初はその正確なデッサン力とシャープで美しい描線で初期のDreddなどを描いた英国コミック・レジェンドのBrian Bolland。アラン・ムーアとの共作によるDC『バットマン:キリング・ジョーク』は日本版も出ているので、その素晴らしい画を見た人も多いと思います。
そして、本編の方は現在も2000ADで活躍中のコミック・レジェンドであり、Dreddの生みの親とも言えるJohn WagnerとCarlos Ezquerraのコンビ。日本ではクローネンバーグ監督による映画『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の原作コミックのライターあたりが一番有名なWagnerは連載開始当初から現在まで続く最も重要なライター。EzquerraはそもそものDreddのキャラクター・デザインをした人。
今回は特別ストーリーで、同コンビによる人気シリーズ『Strontium Dog』のキャラクターが登場しています。『Strontium Dog』はDreddよりさらに未来の世界で大戦争により産み出されたミュータントでその道を選ぶしかなかった宇宙の賞金稼ぎJohnny Alphaの活躍を描く宇宙冒険活劇コミック。1978年に短命に終わった2000ADの姉妹誌「Starlord」で始まり、その後2000ADに移り、他の作家の手にもより1990年まで続き一旦は終了していましたが、2000年から同コンビによるリバイバルが開始され、以来年1期ペースで現在も続いているシリーズです。DreddとStrontium Dogの共演は以前にもあったようで、二人は面識があるのですが、その辺についてはちょっとまだわかりません。
自分を探している人物がいるとのバーテン・ドロイドからの通報を受け、ある酒場に向かったDreddを待っていたのはJonny Alphaとミュータントの賞金稼ぎ仲間達だった。Alphaの言うところによるとDreddに時間を超えた賞金が懸けられてあらゆる時間帯に掲示されているということ。このままではタイム・ベルトを装着し時間をさかのぼり現れたAlpha達のように、あらゆる時間からそれぞれの手段で賞金稼ぎがDreddに襲い掛かる恐れがある。少なくともお前は信用できる、ということでDreddはAlpha達と同行することに同意する。未来へと渡り、捕獲されたように見せかけ相手が何者か探るという作戦だったが、作戦に参加し未来で待ち受けていたStixs族の二人が裏切り、Alpha達を気絶させDreddを連れ去る。そしてDreddを待ち受けていたのは、かつてMega-City Oneを恐怖に陥れたJudge Calのクローン達による私設法廷だった…。
Judge Calはかなり初期のJudge Dreddで半年にわたって掲載された「The Day the Law Died」というストーリーでJustice Departmentを乗っ取りMega-City Oneに恐怖政治を敷いた人物です(Complete Case File Vol. 2に収録)。ちなみにそのストーリーはスタローン主演の方の映画『ジャッジ・ドレッド』のベースにもなっています。最後にはDreddに倒されたJudge Calだったが密かにクローンが作られていてそれらが100年後ぐらいの世界でDreddに復讐を謀ったという話。また、登場するStixsは『Strontium Dog』でAlphaが遭遇した宇宙の辺境の全員同じ顔の無法者種族で、一番最近のシリーズでもAlpha達の作戦に参加しています。

Nemesis The Warlock : Tubular Hells
 Pat mills/Kevin O'neill
こちらのイントロページは、やはり英国コミック・レジェンドの一人Mick McMahonで、Pat Millsの代表作の一つ『Slaine』の世界が描かれています。Mick McMahonは美しいシャープな描線が特徴のBollandとは対照的な荒いが力強い線でまるで岩塊のような人物を描き初期からの2000ADで活躍したアーティストです。初期のDreddなどを見るとアーティストがBolland派とMcMahon派に分けられるようにも見える。現在はずいぶん絵柄が変わり、少しユーモアやシュールを含んだフォークロア的な画風になっているようです。McMahonによって描かれた初期の『Slaine』はMcMahobの代表作でもあり、2013年の『Slaine』30周年にも登場し、特別ストーリー1話を手掛けています。
『Slaine』の方をもう少し説明すると、先史時代の神と人間、剣と魔法とモンスターが入り乱れる世界を舞台に、戦士Slaineの闘いと遍歴を描いた、2000ADではJudge Dreddを例外として、最も長期にわたって続いている作品です。現在も年1期のペースで掲載が続いており、2014年からのSimon Davisによる素晴らしいアートのThe Brutania Chronicleが来年完結の予定です。巨匠Pat Millsについては作品の翻訳も含め、日本ではあまりにも知名度が低いようですが、2000Adの初代編集長でもあり、まさしく英国コミック界を代表する巨匠。代表作は今回登場の『Nemesis The Warlock』や『Slaine』の他、『ABC Warriors』、『Savage』など多数。このうち『ABC Warriors』と『Savage』についてはここ数年毎年1~3月期に交互に掲載され、1999年のVolgan戦争に始まるMills未来史の再構成を図っている模様。
『Nemesis The Warlock』についてはMillsの代表作の一つであることは知っているぐらいで私もこれが初見であまり説明できないのですが、1980年代に基本的には同コンビによって描かれた作品で、フリーダム・ファイターNemesisと宇宙の歪んだ宗教的支配者Torquemadaとの戦いが中心となるストーリーのようです。作画のKevin O'neillも2000AD初期からのコミック・レジェンドの一人で、アメリカDCなどの活躍も多く、アラン・ムーアとの『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』が翻訳があるので、日本的にはMillsよりもおなじみの人が多いかも。
今回のストーリーは、シリーズの最後にともに死亡したNemesisとTorquemadaが融合したまま宇宙の異空間を永遠に流されているというところから始まり、一時解放されたと思ったTorquemadaが過去の自分の肉体に戻ると、Nemesisが現れ再び永遠の流れに叩き込まれて行くというもののようです。キャラクターも特殊でいきなり見せられると何が何だかさっぱりわからなく見えるのですが、あとから出てくる襲撃者の方が主人公のNemesisです。名高い代表作が遂に復活かと思われましたが、今回は新しい展開というものではないワンショットということでした。しかし、前述のMills未来史においてABC Warriorsとも関係のあるNemesis The Warlockですので、そちらの流れでの復活は今後あるのかもしれません。

Rogue Trooper : Ghost of Nu Earth
 Gordon Rennie/Richard Elson
こちらのイントロページも2000AD初期から活躍を続けるDave Gibbons。90年代からは活躍の舞台をアメリカに移し、2000ADには久々の登場となります。こちらもアラン・ムーアとの『ウォッチメン』でその精密な画を見たことのある人も多いはず。2000ADでは通常一話5~6ページ程度という制約でどうしてもコマが小さくなりますが、彼の描く初期の『Rogue Trooper』でもその小さいコマの中でも迫力のある画を見られます。このページではTharg閣下が「いつまでたっても戦争を止めない地球人類に、その未来の姿を見せよう。」と語り、『Rogue Trooper』、『Bad Company』などの戦争コミックの様々な場面が描かれます。
『Rogue Trooper』は1981年から、2000AD初期から80年代まで活躍したライターGerry Finley-DayとDave Gibbonsにより始められたSF戦争コミックシリーズです。遠い未来の世界でSoutherとNortの二つの勢力の間でいつ終わるとも知れない戦争が続いており、その最大の戦場となった惑星Nu Earthは、双方により使われ続けた生物・化学兵器により防護服なしでは生存できない環境になっている。SoutherによりそんなNu Earthの環境でも防護服なしで行動できるよう遺伝子改造で作られたのがG.I.(Genetic Infantrymen)部隊。しかし、自国内の裏切り者によりNu Earthへ投入される降下地点をNortに襲撃され、部隊は全滅し、その中でただ一人生き残った男がRogue Trooperである。軍ではその人的資源を無駄にしないため、それぞれの兵士にはあらかじめその記憶を保存するチップがつけられており、亡くなった3人の戦友のチップをそれぞれヘルメット、背嚢、ライフルに備え付けられたソケットに装着し、彼らと会話しながらただ一人、軍のネットからも離脱し単独で裏切り者を追い続ける男Rogue Trooper。物語は80年代末に一旦は終結し、Rogue Trooperの死も描かれましたが、その後も時間をさかのぼる形で様々な作家の手により描かれ、2000年代前半には今回のGordon Rennieによるシリーズもあります。しかし、近年の最も大きな動きと言えば、そのGordon Rennieによるスピンオフ的作品『Jaegir』が2014年から開始されたことです。Nortの戦争犯罪捜査官である女性大佐Jaegirを主人公としたシリーズは、登場と同時に大変好評を博し、2000ADでも近年最大級のヒットとなっています。その状況で今回の2000号にRennieによるRogue Trooperの登場となったわけです。
Gordon Rennieは90年代から2000ADで活躍中のライターで、多くのDreddを手掛けている他、近年の代表作には『Absalom』、『Aquila』といった作品のある現在の2000ADの中心ライターのひとりです。作画のRichard Elsonはこの後登場のDan Abnettの2000ADでの代表作でもある『Kingdom』を現在描いているアーティストで、特に絵柄としては日本のマンガの影響を受けたタイプには見えないのだけど、技法や構図などに日本のものと共通点も多く、日本の読者にはこの号の中でも一番見やすい画ではないかと思います。
激しいNortからの攻撃にさらされながら拠点にこもり、増援を待つSoutherの兵士達。彼らの会話は兵士たちの間に伝わる様々なNu Earthのゴーストの話になってくる。そしてそれがすでに伝説となっているRogue Trooperの話になったとき、外で不審者として捕らえられ電子ゲートにより監禁されている謎の男が話に加わってくる。「俺はもっと恐ろしいNu Earthのゴーストを知ってるぜ。」一人の兵士が近寄ると、男は閉鎖されているはずの監房から手を伸ばし、兵士の銃を奪い取る。絶え間ない攻撃によるジェネレーターへのダメージによりゲートの出力も弱まっていたのだ。数時間後、Rogue Trooperがその拠点に現れると、兵士たちは全員殺害され、男の姿は無かった。その男こそが彼の追う裏切り者だったのだ。Rogue Trooperの追跡行は続く…。
これに先立つProg 1996~1999に全4回で『Jaegir』のミニシリーズが掲載され、前述のように秋期の始まりの号でもある今号に『Rogue Trooper』が掲載されるというのを聞き、またどこかで目にした噂を思い込みで勘違いもしたのか、この号から『Jaegir』のストーリーにつながる『Rogue Trooper』が始まるようなことを書いてしまったのですが、私の早とちりでした。とりあえずはこのようなワンショット。しかし、『Jaegir』にRogue Trooperが登場する日もそう遠くないものと思います。

Anderson, Psi-Division : A Dream of Death
 Alan Grant/David Roach
こちらのイントロページを描くのはRobin Smith。80年代に活躍したアーティストらしいのですが、ちょっとこの人についてはあまりよくわかりませんでした。こちらはJudge Dreddから広がった世界で、Dark JudgeやRobo-Hunter、Wakter、Andersonなどが描かれています。
Mega-City Oneの女性サイキック・ジャッジAndersonは、近年の映画『ジャッジ・ドレッド』にも登場していたので、知っている人も多いでしょう。初登場は1980年のJudge Dreddで、その後Dreddの宿敵となる、異次元の生が犯罪である世界でその世界の者を全て殺し尽したDeath Judgeが現れたときDreddの捜査に協力します。AndersonとJudge Deathとの因縁は深いのですが、少し長くなりすぎるので興味のある人は、2015年冬期のJudge Dredd/Dark Justice2015年夏期のDark Judges/Dream Of Deadworldについての解説の中で、私が読んだ範囲の初期エピソードについて書いてありますのでそちらを読んでみてください。現在は主に姉妹誌「Judge Dedd Megazine」に掲載されている単独シリーズを持っているAndersonですが、前述のJudge Dredd/Dark JusticeではDreddとともにDark Judge達と戦っています。また、この号に先立ち2000ADでも全7回のAndersonのシリーズが掲載されたのですが…、そちらについてはこれから書く2000AD 2016年夏期後編の方で。今月中には何とかします。
Alan Grantも2000AD初期から活躍するライターで、アメリカDCなどでの活躍も多く、そちらで名前を知っている人も多いかもしれません。初期Dreddの重要なエピソードも多く手掛け、Anderson, Psi-Divisionも多く書いているライターです。2000ADには少し久々の登場のようです。ちなみにAndersonは前述の初登場のエピソードがJohn Wagner/Brian Bollandによるものだったので、目次のクレジットはこの二人のものになっています。作画のDavid Roachは2000ADでは主に80年代に活躍したアーティストで、その後はイラストレーターや映画のストーリーボード・アーティストなどにも活躍の場を広げたようですが、この人についてもあまりよくわかりませんでした。この辺のあたりの人たちについての資料が今少し集めにくいところなのかも。白黒のイラスト的な作画は大変美しい。
任務から戻り、スリーピング・マシンで仮眠をとったAndersonをJudge Deathの悪夢が襲う。しかし夢であることが分かっていれば自らの夢をコントロールできるAndersonは、夢の中のJudge Deathをコテンパンに叩きのめし、数分後さわやかな気分で目覚めるのだった。
前述のようにAndersonと因縁の深いJudge Deathが登場するワン・ショット。スリーピング・マシンは忙しいジャッジが数分で充分な休息がとれるという装置で、初期のDreddから登場しています。

Sinister Dexter : Replica
 Dan Abnett/Mark Sexton
こちらのイントロページは主に90年代から2000ADで活躍中のアーティストColin McNeil。ここ1~2年では最も多くDreddを描いています。太く丸い線に影を効果的に使うアーティストで、今回は白黒ですが、雰囲気のあるカラーも上手い人。こちらは主に80~90年代の作品のキャラが登場しているようですが、まだその辺は手を付けられていないところで私にはほとんどわかりませんでした。早く制覇を目指したいところ。
Sinister Dexter』は1995年から続くDan Abnettの人気シリーズです。二人組のガン・シャークFinnigan SinisterとRamone Dexterが主人公のアクション・シリーズ。ほとんど現代のように見えますが、未来の人類が移住した他の惑星が舞台となるSFです。元々のキャラクターは映画『パルプ・フィクション』のジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソンがモデルになっているそうですが長期にわたる間にずいぶん変わっている感じ。ここ3年ほどは、自分たちが暗殺したはずだったが異次元並行世界の同一人物に入れ替わってしまい、放置しておくと世界のバランスが崩れる危険性のあるギャングのボスTanenbaumを追うストーリーが続いていましたが、昨年末に終了。Tanenbaumは倒したが、その時の爆発に巻き込まれ、今度は自分たちが並行世界に飛ばされてしまったという結末。元いた都市と全く同じだけど、誰も自分たちのことを知らない世界で再びガン・シャーク稼業を始めたというのが現在の状況です。
アメリカ、マーベルなどでの活躍も多く、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の原作者としてもクレジットされているDan Abnettですが、2000ADでもこの『Sinister Dexter』の他にも『Kingdom』、『Grey Area』などの現在進行中の人気シリーズを抱え、つい先ごろの夏期にも個性派アーティストI. N. J. Culbardとのコンビで地球上に居住不可能となった人類が軌道上に立ち上げた巨大人工衛星都市群が舞台の『Brink』を立ち上げ、それも確実に人気シリーズに加わって行くものと思われます。この『Sinister Dexter』の作画は常に交替し別のアーティストによって描かれるという形式をとっており、今回は日本でも翻訳が出たVertigoの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でライター/アーティストとして作品の一つを手掛けていたMark Sextonを起用。今年冬期にJudge Dreddの全6回のエピソード『Ghosts』で2000ADには初登場しており、ストーリーボード・アーティストでもある画力を活かしたスピード感のある構図と素晴らしいペンのタッチを見せてくれました。2000ADでの今後の活躍も期待されるMark Sexton。そして7月に発売された増刊『2000AD Summer Special 2016』にも『Sinister Dexter』のワンショットが掲載されており、そちらでは2013年のコンテストの優勝者であり、最近手掛けた2000ADのDreddを描いたカバーがポスターにもなっている新進気鋭のアーティストTom Fosterが起用されています。
こちらの世界でも彼らの相棒となるのは愛車1958年型フォード・エドセルのレプリカ。その車に乗り、二人が今日訪れたのは墓地。かつて関わりのあったある女性の命日の墓参である。だがその墓の前には先客がいた。彼女の妹である。だが、この世界の彼女は2人のことを知るはずもない。昔のビジネス・パートナーと名乗り墓に花を手向けた後、彼らが乗り込む車を見たとき、彼女の頭にあるはずのない記憶がフラッシュバックする?
今回のこの作品もワン・ショットですが、近く再開されるであろうシリーズでその続きも描かれることでしょう。「かつて関わりのあったある女性」とか書きましたが、実は私もその辺の事情については今のところ全く分かっていません。好きな作品なのだけど、どうも過去のものがきちんとまとめられていない『Sinister Dexter』で、最近の「Judge Dredd Megazine」にも過去作がまとめて再録されていたりもしたようなのですが、いずれ完全版が刊行されるのを期待しています。今回ラストのフラッシュバックのコマが特別ゲストSimon Davis画伯によって描かれています。ちなみにSimon Davisによる『Sinister Dexter』ワンショットも2015年クリスマス特大号Prog 1961に掲載されています。

Conterfeit Girl
 Peter Milligan/Rufus Dayglo
こちらのパートは2000年代から活躍中のBoo Cook。シャープな線に独特のブラック・ユーモアテイストを含む画風のアーティストです。アメリカではImage comics『Elephantmen』のカバーなどでおなじみ。そちらで忙しいのか最近の2000ADではワンショット的なものしか見られないのですが、1999号のカバーはこの人によるものです。こちらは2000年代以降現代の2000ADの世界が描かれ、私の知っているキャラも多いです。後ろの方に書かれてる戦車人間は、自分がこれを始める前の2013年夏期Prog 1830-1832に掲載されたTharg's 3rillersの『Gunheadz』という作品のキャラだと思うのだけど、あれもCookさんの描いたやつだったのかな?かなり好きな作品なのでまた続きが描かれるとうれしいです。
いわゆるブリティッシュ・インベージョンの一人としてグラント・モリソン、ニール・ゲイマンなどと並び名高いPeter Milliganですが、昨年秋期、80年代の代表作『Bad Company』を復活させて久々に英2000ADに復帰。その際、亡くなったBrett Ewinsに代わってペンシラーを務めたRufus Daygloと、再び組んで始まったのがこの『Conterfeit Girl』です。ダークなサイバー・シティを舞台に、人々の身元を書き換えるのを商売とする女性が主人公のシリーズ。こちらはその第1回で、第1シーズンとなるのかが今年いっぱい続くことになると思われます。とても楽しみなこの新シリーズについては、2016年秋期の時にまた詳しく。


以上がイギリスが誇る週刊コミック誌2000ADの記念すべき2000号の内容でした。たぶん誇っていると思います…。1号だけなのですぐに書けると思っていたのだけど、思った以上に濃い内容であり、また2000号ということで初めて見た人もいるかもしれないし、そういう人にもわかるものを、などとも考えていたら結構大変な作業になってしまった。コミック関係はなるべく画像を入れるようにしようと思っているのですが、探す余裕がなくひたすら文字ばかりになってしまい少し読みにくかったらすみません。自分の感想としては、自分程度の読者歴で最近の作品から興味をもって少し過去のものを見たぐらいでもこのぐらいには何とか語れるように、現在の地点から過去40年の歴史を網羅した素晴らしい記念号だったと思います。もっと文字だけのページとか多くあるのかと思っていたのだけど、ひたすらすべてコミックで攻めたのも素晴らしい。2000ADはその歴史からも奥が深く、読めば読むほど面白くなってくるので、日本からでもデジタルで最新号が簡単に手に入るこの時代、もっと2000ADのファンが増えるといいなあと思います。ということで何とかやり遂げたよ。ご苦労さんオレ。


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